月見茶

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4/12/2026, 3:10:59 PM

遠くの空へ

 スーツを着た女が、学舎の屋上に立っている。
 女は迷いなく、フェンスの向こう側へと逝く。
 下を見ると、小さな点がそこかしこに見える。
――このままだと、巻き込むかな?
 女は笑う。今から遠くへと向かうのに他人の心配をしている自分が阿呆に見えたからだ。
――いや、元から私は阿呆だった。今日ようやく気づけた!!
「今日は良い日だ!」 
 女は可可と笑う。上から聞こえた声に下にいた点達がわらわらと移動を始める。
 女が落ちるであろう場所から離れ、板のようなものを彼女に差し向けたり、学舎へと入って行く者もいた。
――嗚呼、私の逝く様を焼き付けてくれるのか。
 女は口角をにんまりと上げる。嬉しくて仕方がないのだ。
――私は、過去も未来も誰かにひっかかるような奴にはなれなかった。だか、今! 私を!皆が!
 女は今日、10社連続で『お前は要らない』と言われた。
 女はこの半年、失格を命じられ続けた。彼女の涙は枯れることなく、ついに現世に失望した。
 面談をしてもきっと変わることはないだろう。
 女は遠くに逝くのを望んだ。そして今日実行したのだ。

「それでは、皆様!」
 女が空へ舞う。
「来世で逢いましょう!それまで、お元気で!」
 
 
 女は遠くの空へと飛んでいった。
 

4/11/2026, 7:31:41 AM

春爛漫
 
 目を開けると、桜の花弁が舞い踊ってた。
 うたた寝をしていた幣紙は、暫く自然の舞いを見ていたが、やがて体を起こした。
 喧騒がかすかに幣紙の耳に入る。
 幣紙は声のするほうに向かって、歩きだす。
 部屋を出る時、桜の花弁が落ちた。
 本日は花見日和。

4/9/2026, 2:33:22 PM

誰よりも、ずっと

 病室の寝台で一人の少女が眠っている。 体の至るところに包帯が巻かれ、痛々しい。
 微かに胸が上下するのとモニターの反応以外、少女が生きているのか判別出来ない。
 隣には付き添いなのか、少年と言っても差し支えない子が椅子に座っている。子どもは何をするでもなく、少女を眺めている。だが、表情は固く、眉をしかめているように見える。
「主……」
 思わず声が漏れる。
 守らなくてはいけなかった。守ることには自信があった。誰よりも。誰にも負けないことだった。
 だが、駄目だった。駄目だったのだ。
 子どもは忘れないだろう、この日を永遠に。
 固く誓うだろう。
 誰よりも、ずっと、主を守り続けると。

4/8/2026, 3:50:53 PM

これからも、ずっと

 玖蘭には、護衛官が居る。彼が9歳のときに就けられた。
 最初、玖蘭は男に無関心だった。というのも薬の副作用もあってか、周りの事象も、善悪も判別出来なかった。
 護衛官の男の前にも何人かいたが、皆さじを投げてしまった。尽くしても尽くしても、玖蘭から感謝どころか、苦言すらない。そんな子どもに仕えても生きがいはない。
 だか、男は玖蘭のことを見捨てなかった。
 根気よく付き合い続け、玖蘭が持つ関心を徐々にもたせていった。

 玖蘭は今も護衛官と共にいる。
 これからも、ずっと。

4/7/2026, 1:47:00 PM

沈む夕日
 
 銃から薬莢がバラバラと落ちる。玖蘭は殲滅対象のヒトデナシと戦闘を繰り広げていた。
 大振りの銃を持ち上げ、ちょこまかと動き回る生物に撃ち込み続ける。だが、ヒトデナシの身体は頑丈なのか中々斃れない。
――きりがない。
 玖蘭はヒトデナシに銃弾を浴びせながら、舌打ちをしそうになる。
 仲間とはとうに分断され、孤軍奮闘を続けていたが限界に近づいてきていた。
 ぜえはあと息を上げながら、玖蘭はヒトデナシから距離を取ろうとする。
 隙を待っていたのかヒトデナシは玖蘭へと一気に詰めてくる。玖蘭は不意を突かれたのか、後ろに下がるのを一瞬躊躇った。バランスを崩し、後ろへと倒れる。
―不味い。
 ヒトデナシが玖蘭の眼前へと迫ってくる。
 ヒトデナシの不気味な身体から外の景色へと視界がぐるんと回った。
「あ」
 さくら色の唇から、吐息に近い言葉が思わず漏れる
 ヒトデナシも言葉につられたのか、外の方を見た。


 瞬間、ヒトデナシは何が起きたのか理解しかねた。
 自身の身体に銃剣が、胸から背中まで突き刺さっていた。己の核が破壊されたと気付くのにいやに時間がかかった。
 次にヒトデナシが見たのは、玖蘭が別の拳銃で自身を撃ち殺すところだった。

 肩で息をしながら、玖蘭は足でズルズルと骸から銃剣を引き離すと、その場に座り込んだ。さっきヒトデナシの爪が腕にかすったのか、指先から血が滴り落ちていた。
――早く、止血しないと。
 頭では理解しているが、体はもう動かない。血が、床に赤黒い線を作っていく。
 顔に光が当たる。玖蘭は弱々しく頭を外へと向けた。
 玖蘭の目に映るのは、沈みゆく夕日。
 赤い太陽が地平線へと隠れてゆく。
 玖蘭の顔に当たっていた光が徐々に弱っていく。

「もうすぐ、黄昏になる」
 
 何処からか人間の足音がする。
――味方か。
 何故かそんな気がした。
 血はまだ流れている。ようやく体が言うことを聞き始めたのか、片方の腕で出血している所を抑える。


「あ、るじ…さまっ」
「助かった、血を止めるのを手伝ってくれないか」
 

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