見たことのない景色を目指して、
今日もひたすら漕ぎ続ける。
私の相棒の自転車と一緒に。
上り坂、下り坂、でこぼこ道。
定期的なメンテナンス。
空気を入れてあげるのも忘れずにね。
絶好の晴れの日。
――さて、今日も行こうか。
〜自転車に乗って〜
『この薬があれば、どんな症状にも効く!!』
なんて、売り込みチラシに書いてあったから、試しに買ってみた。
風邪はもちろん、打撲や骨折、さらには精神的な心の病にだって効くらしい。
評価は花丸。
会社の同僚も、「これめっちゃオススメ!この薬さえあれば、あと他には何にもいらないよ!!」だって、
正直なところ、不安でしかない。
かなり高額な値段だったし……
小さな小瓶を揺らしてみると、タプンと毒々しい紫の液体が揺れ動く。
……やっぱり飲むの、やめようかな。
でも、今は絶不調期。
理由は言わないけど、多大なストレスでもうぶっ倒れそう。
ね、そこの貴方。
この薬、飲んだ方がいいと思う?
〜心の健康〜
放課後。
蝉が鳴く真夏。
今となっては使われていない音楽室で、
君はピアノを演奏する。
曲名は無名。
そう、勝手に僕は名付けている。
聞いたことが無い旋律が、僕の耳に届く。
腰くらいまである、長い黒色の髪を揺らして、
君は激しく、かつ、美しく音色を奏でる。
話したことなんて一度もない、そもそも違うクラスだし。
でも、彼女の音楽はとても好きだ。
なんだか、音が生きているような気がするから。
〜君の奏でる音楽〜
ふわり、と僕のもとへ飛んできたのは、ひとつの麦わら帽子。
真っ赤なリボンはくたびれて、所々網目がもつれている。
どこからやって来たのか。
ひまわり畑の中心で考える。
すると、どこからか幼い女の子の声が。
「おにーさん!そのぼうし、ちょうだい?」
いつの間にか、目の前には小さな女の子がいた。
ひまわりをそのまま擬人化したような、元気いっぱいで明るい子だった。
僕は、その子に手渡しすると、女の子はキラキラ眩しい笑顔で、感謝の気持ちを伝えてくれた。
「ありがとう!」
久しぶりに聞いたその言葉に、僕は微笑みを返して言った。
「どういたしまして」
〜麦わら帽子〜
空が、紺色のペンキを塗りたくったようになった頃。
私は貴方に別れを告げる。
星なんて一つも見えない。
お別れだって言うのに、貴方の視線はスマホに注がれている。
私は、今日という日の最後の最後まで、貴方のことしか考えていなかったのに。
ずっと見つめていたのに。
貴方は見てくれないのね。
最後の一本の電車がやって来た。
「じゃあね」
「おう」
それだけの会話。
私は今日も自分の家へと帰る。
コツン、とヒールの音を響かせて、つり革を掴む。
その時ですら、ちらりとも見ずに、貴方は帰った。
寂しいのに。
貴方はなんとも思っていないのね。
〜終点〜