今日は年に一度のハロウィン。この日くらい、仮装している人々に紛れて君に逢いたい、触れたい。彼が住んでいる号室の前に、ずっといる。だって、未練タラタラで捨てきれないんだもん。ベランダから街を見下ろす。たくさんの灯りがギラついていて、あまり好きじゃない。
(……あ、帰ってきた)
向こうから伸びをしながら歩いてくるのは、僕の好きな人。愛して愛してやまない人。前まで幸せに暮らしていたのに。血が出そうなほど下唇を強く噛む。徐々に近づく距離。僕は耐えきれなくなったように、そこから歩き出し、手を伸ばしてしまった。
「おかえり、待ってた――」
よ、と言い切る前に彼は完全に無視して、僕のことを素通りしてしまう。泣きたくなったけれど、何とか我慢して一緒に歩き出す。彼だって、楽しそうな笑顔が好きって僕に言ってくれた。鍵を開け、ドアが開いた瞬間を見計らって、即座に中へ入る。
「ねぇねぇ、今日はハロウィンなんだってね。すごく街が賑やかそうでさ。でも僕は君がいればどんな日だって……」
「んん……なんかやけに今日は寒いな。あれ、俺ちゃんと部屋の窓閉めたよな」
やっぱり、聞こえてない。うん、そうだよね。仕方ないよね、知ってるよ。会話することが出来ない、手を繋ぐことも出来ない、抱き締めてもらうことなんて尚更。彼と逢えて嬉しいはずなのに。勝手に涙がこぼれ落ちて、地面を濡らす。そんな中で彼は電気をつけてリビングへ入り、ソファにスーツとバッグを放り投げるように置き、とある場所で足を止めた。それは――僕たちが一緒に撮った写真の数々が置いている所。遊園地、動物園、水族館。お互いの誕生日をお祝いした時。一つ一つが小さな額縁に入っていたり、アルバムに閉じていたりした。僕がそっと彼の前に回り込んだ時。君は一枚の写真を手に取り、いつもみたいに軽く笑って言った。
「ハッピーハロウィン!お菓子をくれなきゃイタズラするぞー!……って、何言ってんだろうな、俺。もうお前いないのにさ」
写真を持っている手がふるふると震え出す。眉間に皺を寄せて、目には大粒の涙が浮かんでいる。いつもなら僕の前でこんな顔しないのに。でも、君も僕と一緒の気持ちなんだよね。
「もっと色んな場所行って、姿も見たかったのに……あわよくば今日の仮装だって……。早く、またお前に逢いたいよ……戻ってこいよ……」
「僕はここにいるよ。ずっと、ずっと君のことが大好きなんだから。身体が弱いからって、ネガティブだらけな僕と一緒に笑ってくれたの、大切な思い出なんだから……!」
思わず僕は彼のことを後ろから抱き締めた。今ここにいる君の身体と、きっと今しかいられない透けている僕の身体。温度なんて分かんない。彼が感じているのかも。こんなにも近いのに遠く感じる。でも絶対に胸に秘めている気持ちは一緒。それだけでも心が満たされていくのを感じる。
今日の仮装は『お化け』ってことで許してよ。まぁでも、来年も再来年も一緒かなぁ。でもまた逢いに行くから。絶対にね。
〜別題〜
あめだまひとつ、いかがですか
きれいなあめはころり、ころがって
ひびがいっぱいのは、すてられる
あまいみつがとろり、とろけても
みんなはそれに、ふれてくれない
わたがしひとつ、いかがですか
ふわふわしてるね、ゆめみごごち
ふわふわしてるよ、ぼくのからだも
だれかだいてよ
このからだ
こんぺいとうひとつ、いかがですか
イガイガ、ゴツゴツ
まるでぼくのこころみたい
チクチク、モヤモヤ
みんなのこころもそうなの?
いっしょうけんめいさそっても
ぼくはからっぽ、みたされない
ねぇ、おねがい、だれか
ぼくをだいて
あいをおしえて
〜別題〜
あなたと向かい合わせ
画面越しのあなたと向かい合わせ
絶対に会えない、
言い切ります。
あたしにかけられる
頑張ろうとか、君ならできるさとか
魔法の数々
……あなたはそれをもっと他のひとにもかけているんでしょ
知ってる
あなたが好きな奴らがたくさんいることくらい
知ってる
みんながあなたを求めて大小の戦争勃発させてるのも
全部全部知ってる。
次元の違う空間でしか生きられない、
あなたと向かい合わせ
『……恋愛アプリ、好評配信中!』
〜向かい合わせ〜
貴方を独り占めしたい
僕の傍にいてほしい
どくん、どくん
心音が聞こえるくらい
どくん
もっと近く。
この寂しさを埋めて頂戴
貴方の温もりで
僕は貴方のために踊り続ける
黒のうさ耳揺らして、手をぎゅっと握って、
蕩けるような快楽に腰を反らして
視線をも逸らす
手を差し伸べて
甘えた声でねだってみるけど
貴方はなかなか僕の物にならない
だから今日も想い続けている
寂しさだけじゃなくて、愛情で満たして
絶対に貴方を堕としてみせる
〜別題〜
あたしは一生抜け出せない
心の鳥かごに囚われて。
気持ちの解放なんて
鍵がないから出来ないじゃない
あたしはずっと囚われの身
本当はもっと自由になりたい。
でも、無理なの
押さえつける声が態度が頑丈すぎて
それでも、
僅かな希望があるのなら
抜け出したいって
思ってしまう時もある
〜鳥かご〜