1000年先も、ずっと『人間』という存在がいてくれたらいい。
人間の優しさが、
人間の温もりが、
人間の楽しさ、面白さが、
ずっと、ずうっと残り続けてくれたらいい。
〜1000年先も〜
「……明(あかり)!」
俺は勢いよく病室の扉を開ける。そこには、ただ黙って外の景色を眺めていた。
「明……無事か?」
早歩きで彼女のもとへ向かう。すると、ゆっくりとこちらを向いた。
「あか……り……」
そこにいたのは、明ではない人だった。いや、明ではある。ただ、なんと言えばいいのか……抜け落ちているような、どこかぼんやりしているような。上手く言葉にはできないが、とにかく、俺の知っている明ではなかった。
「……お見舞いのお花、持ってきたよ。明」
花瓶に、さっき花屋で買ってきた『勿忘草』を挿す。鮮やかな青色で、小さな花を咲かせている。これは、彼女の大好きな花だ。「可愛らしい花よね」と言って、微笑んだ彼女は、とても天使のようで美しく、思わず一目惚れしてしまった。
そんなこんなで、俺は彼女と恋人関係を築いた。今日は、俺たちが恋人になって一周年。だからこそ、彼女の喜ぶものをプレゼントした。本当は、こんな場所でするはずではなかったのだが。青信号だったのに、信号無視の車が突っ込んできて、明は重傷を負った。あの場に俺がいたら良かったと、何度思ってきたことか。
俺は辛さに目を伏せていると、ふと声が聞こえた。
「……誰だか分かりませんが、ありがとうございます。きれいな花ですね」
「……そうだね」
やっぱり。やっぱり、そうだったか。俺は病室を出て、その場にへたり込む。涙が溢れ出て、止まらなかった。
『私を忘れないで』いや、『あなたを思い出させる』。
俺が。ゆっくりでも。
〜勿忘草〜
ギーコ、ギーコ……
古びたブランコから、錆びた金属が軋む音が聞こえる。ここは、かなり前から誰からも使われない、廃公園になってしまった。すぐ隣に、新人さんがやってきて、みんなは、その新しい方で遊ぶようにになってしまった。今や、この廃れた公園で遊んでいる――いや、慰めてもらっているのは、ただ一人、私だけだ。そんな中、私のお気に入りは、このブランコ。4つ並んでいて、よく友達と、どこまで高く漕げるか競争をしていた。今となっては、ほんの少しの風が相手。私も社会人になって、みんなもそれぞれの道に進んで。
「……はぁ、またみんなと一緒に遊べたらなぁ」
なんだか、哀しくなってくる。今頃みんなは何をしているんだろうか。
ギーーーコ……
一際大きな音を立ててから、ブランコをおりる。すると、枯葉とともに秋風が流れてきて、私の頭を優しく撫でていった。
〜ブランコ〜
旅路の果てにあるもの。
ぶっちゃけ、そんなの、今の自分に分かるわけがない。
今はまだ、その路に色をつけている最中だ。
喜怒哀楽などなど
色んな記憶が、『私』という路を鮮やかに飾り付ける。
そんな路をくぐり抜けて、あるもの……
何も無いただの真っ白な空間?
それとも、何も見えない黒?
……やっぱり、分からないや。
今は、『私』を描くことに集中しよう。
うん、そうしよう。
〜旅路の果てに〜
『あなたを愛しています』『一生推します』
この言葉を、次元の壁を越えて伝えたい。
そう思いながら、今日もあなたを眺める。
画面越しにいるあなたを。
〜あなたに届けたい〜