「どこまでも続く青い空」
地面に仰向けになり、真っ青な空を見上げた。
雲一つ無い、快晴だ。
ふと時間が気になってスマホの電源をつけようとしたがつかなかった。
そうだ、何度も鳴る通知音がうっとおしくて、叩きつけて完全に壊したんだった。
結構思い切ったな、と自分のした事に鼻で笑う。
もう時間なんて気にすることはない。
身体を起こし、周りを見渡す。
立ち並ぶビル群はただの大きな岩と成り果てた。
昔通ってた小学校なんて、既に塵と化している。
仲良く撮った家族写真は、きっと無に等しい。
2XXX年。
突如AIの暴走、反逆により日本は滅亡寸前に陥った。国はありとあらゆる手を使って、抵抗したが駄目だった。
いずれ日本だけでなく、他の国でも同じことが起こる。
餓死するのが先か、
暴走したAIにリンチにされるのが先か、
それか…
もう一度空を見上げ、その青い空に溜息をつく。
一瞬、青の中に目立つキラリと赤い光が見えた。
そういえば、AIの暴走を止めるために最終兵器を使うとか言っていたような。
みんな吹っ切れてたんだ。
どうでも良くなった自分の笑い声が響いた。
笑い過ぎたのか、涙が目に滲む。
一等星が、また一段と輝く。
このどこまでも続く青い空。
いつまでも、見上げていたかった−−−−
「お願いします、付き合ってください!」
またか、とため息をつく。
大学内の食堂にて、一人で昼食を食べていたのだが、目の前のそいつによってその時間は奪われた。
周りは一瞬静まり返り、その後なんだなんだとこちらを覗くようにして見ている。
「あ、へへ…すみません、でっかい声出しちゃって。偶然見つけちゃったので、つい」
へへ…じゃない。
何回も迫ってくるこいつのせいで、毎回周りからの視線が痛いし恥ずかしい。
「たしか、一年の子よね?ごめんなさい、前も言ったけど、それには答えられないの」
やんわりと断るのも嫌になってきたなと、カレーライスを口に入れる。
「どうしてですか?…理由を教えてください、納得できないんです!」
いつのまにか、目の前に座っていたこいつは前のめりになって聞いてきた。
「…いつも言ってるでしょう。私と付き合った人は、絶対に死ぬって」
「それが納得できないんですよ!」
それは私も同じだ。
そんなの、現実ではありえないからだ。
だが、過去に私と付き合った人は1週間以内に何かしらの事故で死んでしまった。
一種の呪いのようなものである。
「だから、1人でいたいのよ。私は」
食べ終わった食器を返却口に返しに行こうと立ち上がったその時、
「じゃあ、お友達からはどうでしょう!これだったら、付き合ってることにはなりませんよね」
次の日、うまく言いくるめられた気がする私は、
その子と遊ぶ約束をした。
…正直、楽しかった。
その子と過ごしていた時に笑みがこぼれていたほどだ。私はそんな私に驚いていた。
数週間ほど経ったある日、私は彼女に言った。
「その…付き合うって話、まだ有効かしら?」
そう言うと、その子は目をパチクリとさせた後、
街中に響くほどの返事をくれた。
その日の帰り道、私達はビル街を歩いていた。
お気に入りの喫茶店があるから、帰りに寄って行こうと誘ってくれたのだ。
ここです、と私の一歩先を行った時、
周りで悲鳴が上がった。
私がその子の名を呼んだときには遅かった。
まるで、今まで降り掛かっていた呪いが襲いかかってきたように。
私はあのことを忘れていたのだ。
ビルの上から看板が降ってくる。
ああやはり、
こんな気持ちになるなら一生私は一人でいたい、
私は過去の自分を呪った。
授業が退屈で、私は教室の窓をぼーっと眺めていた。
聞いてなくても別に問題ない授業だ。
空にある雲の長さを、他の雲と測り出していた頃だろうか
神様が舞い降りてきた。
吸い込まれるような目と、私の目があった。
「一緒に−−−」
何も聞こえなかったが、唇の動きでそう読めた。
そう言って、神様は消えてしまった。
一緒に…なんだろう。
大事なところだけ聞こえないのが神様っぽいな。
虚ろな頭のまま、私は立ち上がり廊下へと飛びだす。
いつのまにか屋上へと立っていた。
フェンスを乗り越えて、足を揃える。
風は感じない。
私も誰かの神様になれるのだろうか。
そんな事を思った瞬間、私は空に足を踏み入れた。
身体が下へと落っこちる。
空中落下ってこんなに気持ち悪いんだ。
一瞬だと思ったのにスローモーションで流れていく。身体の中に空気がねじり込んでかき混ぜてくるような、そんな感じ。
地面をみると、さっきの神様がこちらに手招きしている。
神様……あ、そうだ。窓を見てみよう。
そう思って視線を窓に移した。
ガタンッ
目を開けると、教室だった。
夢か。
授業は終わり、どうやら休み時間のようだった。
次の時間は自習だ。
またあの神様に会えるといいな
そんな事を思いながら、また眠りについた。
『私の名前』
私は趣味も顔も成績も、全てが普通だ。
もちろん、名前も普通。
せめて名前は珍しくしてくれ、と親を恨んだことがある。
でも、いつも教室で会うあの子が私の名を呼ぶときのあの惹かれるような目。
夕陽に照らされて少し赤く見える顔。
繰り返し聞きたくなるような優しい声。
鼻腔をくすぐっていつまでも残ってる匂い。
私はこの瞬間が好きだ。
なんだか、特別になったような気がして。