「1年後?そんなの1年後に考えればいいじゃないか」
そう笑顔で返すアルベルトを見て頭を抱える。確かにそういう考えもあるだろうが俺はそう行かない。もし1年経ってもこの世界に居るとしたら大学はどうなるんだ…1年もの無断欠席だなんて目を瞑ってもらえるわけがない。向こうの世界の俺の立場も気になる、バイトは首にされてるだろう…と胃をキリキリさせているとアルベルトの手が俺の肩に乗っかった。
「先を見通すってのもいいけれど、少しくらい今しか見なくても大丈夫さ」
普段飄々としてる奴の真面目な顔とは意外と説得力があるようで、肩の荷が降りた気がした。
創作 【1年後】
子どもの頃はね、お星さまを捕まえられると思ってたの。月にすぐ行けると思ってたの。でも違ったの。
「星はすっごく遠い場所にあるから捕まえられないよ」
ーーそっか。ならそこまで旅行すればいいのかな?
「違うよ!すっごく遠いんだよ!私たちが星の場所にいくまでに死んじゃうよ!」
ーー……そっか。
昔は一緒に月に行こうって言ってたのに。みんな大人になって夢を見なくなった。夢を見るって素敵なことなのに…どうして。
「イオ起きろ。せみちゃんが作った朝ごはん冷めるぞ〜?」
アルベルトの声で目が覚めて、リビングに向かう。こう歩いてるとみんなが夢を見なくなった理由が分かったかも。
「せみちゃん、起こしてきたよ」
「ありがと、2人共食べな」
だって現実が幸せだから、夢を見るより幸せになったんだもんね!
そうだよね?きっと…………
創作 【子供のころ】
朝、いつもと同じ時間に目が覚めた。目覚ましは掛けてないのに身体に染み付いているのだろうか、2人が寝てる布団を後にしてキッチンに向かう。スリッパがフローリングに擦れる音しか響かない廊下は昼間の騒がしさを忘れさせる程にモノ寂しさを帯びている。キッチンに立ち朝ごはんの支度をする。
少し前までは一人暮らしだったから適当なゼリー飲料で済ませていたが流石に人にゼリー飲料を進めるのはどうかと思い料理を作ることにした。幸い2人は俺の作る料理を気に入ってくれたらしく、それから沢山リクエストをしてくるようになった。無理難題を言われる事もあるけど、幸せそうに頬張る2人を見てると不思議と要望を叶えたくなる。まだ一緒に少しの時間しか過ごしていないのに自身の日常に組み込まれつつある事に我ながら驚く。
そう思考回路を回していると朝ごはんが出来上がり始め、アルベルトが起きてくる。髪はまだ結っておらず無造作に飛び跳ねた白髪を引き摺りながら眠そうに起きてきた。
「起きたか。おはよう」
そう声をかけても頷くだけで返事がない、まだ夢の中なのだろう。寝ぼけているアルベルトを椅子に座らせホットミルクを渡すと少しづつ飲み始める。寝起きの年老いた猫を見ている既視感で自身の広角が上がる、笑ってると思われると怒られるので急いで戻すが気付かれていない。安堵のため息を吐いているとしっかり目が覚めたのかアルベルトが腹が減ったと嘆き始めた。イオを起こすのを頼んで朝食をテーブルに並べる。自身の母も、こんな日常に幸せを抱いていたのだろうか。
創作 【日常】
「君って、ほんと赤色が好きだねぇ」
キッチンで作業している彼に向かってそうこぼす。彼は紅色の髪色に鮮やかな赤い目、それに赤いブーツ。まさに上から下まで赤色で囲まれてる奴だ。
「確かに好きだけど…舐め回すようにみるなよ」
そう顔を強張らせる彼に軽く謝罪を入れつつ、彼の赤色を見る。生え際が少し黒い、きっと染めているんだろう。染めるほど赤が好きとは…と感心していると今度は彼が私を見ていた。
「おや、どうしたんだい?」
「お前は白とか黒が好きなのか?」
彼曰く、私の着てるものがモノクロを基調としたものしか身に着けて居なかったり、白髪の三つ編みだから故の考えらしい。
「ふふ、御名答だ名探偵。それに加えて青と赤も好きだけどね」
そういいクルクル回ると彼はため息を吐いた。でもこれは彼の悪い癖であって、愛らしかったり恥ずかしくなったりするとため息を吐く。最初は呆れているのだろうと気にも留めてなかったが、ここ最近分析して気付いた。その時はイオと2人で笑った。
彼は純粋が故に不器用なんだ。驚くほど頑固で素直で…何故そういう人間ほど上手く生きれないのかと思うと悔しい。でも彼はこんな考えている心優しい私の事など気にも留めずに3時のおやつであろうドーナツを用意している。ドーナツは私とイオの大好物で、二人してドーナツの広告をジッと見ていた時に察したらしい。私もイオも聞かれれば教えたのにと思ったがそこが彼らしい不器用さなんだと思う。
「この美味しそうな気配ドーナツでしょ!?」
勘が働いたのかさっきまで天体観測をしていたイオがすっ飛んできた。スピードを出しすぎて彼に当たると鈍い声が出た後にイオに注意をしていた。人に注意されることを苦手にしているイオに罪悪感を持たせない注意の仕方をしているのでそこも彼なりの不器用で素直な部分だと思えると意外にも可愛らしくて笑えてくる。
「食べたい奴は手を洗ってこい。洗わないと食べさせない」
そう私達に声を掛けるので私とイオは手を洗いに行く。イオは楽しそうに自作のドーナツの歌を歌っていて、どうもおかしい歌詞で私も釣られて歌ってみては2人で笑う。せっけんもリズムに乗った私達の手で泡立てられ次第に大きくなる。水できれいに洗い流し彼が洗面台の手すりに掛けてくれたであろうタオルで手を拭き2人で戻りテーブルの椅子に座る。そうすると彼はお手拭きとお皿から少しこぼれるくらいに乗ったドーナツを置く。目を輝かせ食べ始める私達を見て彼はまたため息を吐き、優しい目で食べてる私達をみる。イオも空を見上げる時そんな目をする、だから私は青も赤も好きなのだ。それと、
「この色も好きだよ」
美味しいドーナツを頬張りながら言葉をこぼした。
創作 【好きな色】
空気という見えないものが酷く恐ろしかったの。空気というものに怯えてたらいつも呼吸をするのが怖くて、恐ろしくて。でも、彼はそんな私を見放さなかった。
「これで、空気の心配はしなくていいだろ?」
宇宙服のようなヘルメットから彼の笑顔が見える、この隔離された様に見える視界に不思議と落ち着いて自分の口角が上がるのが分かった。
それからは空気というものに怯えなくなった。形ばかりのモノ、それでも落ち着くのはきっと彼から与えられたからこそのモノだからかもしれない。
「イオ、行くぞ」
白色の三つ編みを引き摺りながら前をゆく彼。こうやって余裕を持って見る彼は綺麗だった。
あなたがいたから、知れたのかな
創作 【あなたがいたから】