田中ボルケーノ

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9/5/2024, 12:50:38 PM

そういえばさ、あれから見れた?

まあ、なんというか
こんな退屈な生活をしていたら定期的にこの話題になるのも仕方ない

いや、ないよ
少し開いたとこまでは見かけるけど奥まではやっぱり見えないよね

そうなんだよな
先っちょは見えるけど中身までは見えないんだよな

毎回この結論である

僕たちは僕たちの中身を知らない
哲学的な話ではなく物理的に見えないからだ

次は怪物に襲われたのを目撃した話になる

いきなりね
巨大な毛の生えたヤツに捕まると
お腹の上にのせられて石でガンガン割られるんだって
その時さ、偶々そこにいたんだって
砂囓ってたら出くわしたヤツがいて
なんとね、中が見えたらしいよ

どんなんだったんだろうね

それがさ、よくは見えなかったみたいだけど
スゴい綺麗だったんだって、僕たちの中身

えー、そうなんだ
なんか嬉しいね
見てみたいなあ、そんな美しいなら

だよなあ、見てみたいよなあ

この話題は毎回このパターンで終わる

僕たちは僕たちの中身を知らない
僕たちは怪物に襲われてまで僕たちの中身を見に行く勇気はないし
僕たちはきっとこのままが幸せなんだろう、とそんな気がしてる


               『貝殻』

9/4/2024, 2:15:29 PM

極限まで張り詰めた緊張感は満員の球場を黙らせた

最後の一球になるかもしれぬその投球を見守るために

指先から放たれた白球は

張り詰めた糸の隙間を擦りながら真っ直ぐミットへ向かう

逆転のランナーは息巻いている
打たれればそこでおしまい
サヨナラだ

決着をつけよう、と
全力で振り抜かれたバットから乾いた音が鳴り響いた


ああ、なんとなく
予感はあった、
けど、まさか本当にこっちに来るなんて


高く高く

白球は上がる

球場からは一斉に歓声と悲鳴
まるで花火の様に打ち上がる


落下はほぼ定位置
助走をかけるにはもう少し後ろから、か

風はない

正直、つらいときもあった
辞めよう思ったこともあった

結局、レギュラーにはなれなかったけど
みんながいたから

みんなと見てた夢がある


放物線から落ちゆく白球を追って歓声は更に激しさを増す

そういえば、公式戦は初めてか
土壇場でライトに入れとか

なんだ、監督は見てくれていたのか


浮かぶ想いを切り離し

身を委ねる

球の落下はイメージ通り

逆転のランナーがスタートを切るために構える

一歩目を少し踏み出し

二歩目を強く

三歩目にふくらはぎに力を込めて

グローブが球を捉える

また一斉に花火が上がる

ステップを踏み

右手に握りかえ

全力で

真っ直ぐに

想いをぶつける

届け


真っ直ぐに



             『きらめき』

9/1/2024, 3:15:52 PM

登山家は

そこに山があるから登ったのであって
そこに山がなければ登らずに済むのである

よってこのLINEは来てなかったことにする

そうすれば山は無かったことになり
危険を冒してまで山に登ろう、などという気持ちにならなくて済むのである、



山に登ったこともないクセに
謎の登山家目線で無茶な理屈をつけてLINEを無視することにした


完全に詰んでいる

完全に詰んでいると人は新たなルールを設けたくなる

藤井くんに全力で詰められた私は
王手を受けたこの土壇場から
全歩兵をト金にするべく
将棋のルールを歴史ごと変える手立てはないかと画策する


実は今しがた、彼女からLINEが来た


冒頭の文書だけ見るに

恐らくこのLINEをタップして開いたら

彼女とはさよならだ


私は今宵

目の前の山を消し飛ばし

将棋のルールを変えてみせる



           『開けないLINE』


8/31/2024, 11:17:24 AM

不完全な僕は

不格好な僕から声を掛けられる

完全な僕がお待ちだ、と


不透明な僕と不安定な僕に

案内された扉を開けると

不公平な僕と不自由な僕が何やら言い争いをしており

不用意な僕がまあまあ、と割って入る

どうやら不公平な僕が

完全な僕に不満の手紙を渡そうとしたら

不必要だ、と不自由な僕に止められたらしい

不条理を感じた不公平な僕は

なぜか不完全な僕を睨みつけ

不機嫌な表情を浮かべる

僕らは元々


あ、完全な僕らのはずだった

あ、完全な僕らのはずだった

あ、完全な僕らのはずだった


まるでoasisが湧き出た様な不協和音



            『不完全な僕』

8/31/2024, 9:10:43 AM

夜中に森で

香水の代わりに全身に樹液を塗りたくる

ライトアップされた私を見て

カブトムシとクワガタが集まってくる

おやおや喧嘩をはじめたよ

私の為に喧嘩はやめて、と呟く

まるでディスコのナイトフィーバー

黒光りするこのジャケットで

夜の街へ今、繰り出す


               『香水』

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