不完全な僕は
不格好な僕から声を掛けられる
完全な僕がお待ちだ、と
不透明な僕と不安定な僕に
案内された扉を開けると
不公平な僕と不自由な僕が何やら言い争いをしており
不用意な僕がまあまあ、と割って入る
どうやら不公平な僕が
完全な僕に不満の手紙を渡そうとしたら
不必要だ、と不自由な僕に止められたらしい
不条理を感じた不公平な僕は
なぜか不完全な僕を睨みつけ
不機嫌な表情を浮かべる
僕らは元々
あ、完全な僕らのはずだった
あ、完全な僕らのはずだった
あ、完全な僕らのはずだった
まるでoasisが湧き出た様な不協和音
『不完全な僕』
夜中に森で
香水の代わりに全身に樹液を塗りたくる
ライトアップされた私を見て
カブトムシとクワガタが集まってくる
おやおや喧嘩をはじめたよ
私の為に喧嘩はやめて、と呟く
まるでディスコのナイトフィーバー
黒光りするこのジャケットで
夜の街へ今、繰り出す
『香水』
これじゃまるで、、
これじゃまるで、ガチョウが白鳥に憧れてたみたいじゃないか、勘弁してくれよ
漂う夢を見ているよう
360度からフラッシュが焚かれる
スタジアムからは止まない拍手
怒号の歓声が轟音で鳴り響き
あっ、という間に白鳥は天高く翔び上が
って
それから、もう僕の手元には戻らなかった
悪気?
改めて悪気があったのか?と聞かれると
なかった
と、答える
率直な気持ち
確かに悪いことをした自覚は
あったのかもしれない
ただそこは補える様な気がしていた
誰よりも同じ時間を一緒に過ごし
誰よりも一番近くて
魔が差した?
そんなチンケな言葉じゃ語れないよ
僕も同じ様に飛び立つ準備をしていただけなんだから
感情というのは自分勝手で
その場所、その時で変化する
記憶を思い返す作業も
誰かの都合良く解釈されてしまう
でも、二人で過ごした時間は確かにあった
友情とか愛情とか裏切りとか
勝手な言葉で語るのは
止めてくれよ
夢の終わりに
スタジアムから白鳥が
翔び立った空を眺めている
じっと眺めて
そこからもう、動けなくなった
止めてくれよ
これじゃまるで、ガチョウが白鳥に憧れてたみたいじゃないか、
カリフォルニアに雨が降る
『雨に佇む』
ああ、そういえば
と思い出した
昔、書いてたな、日記なんか
長年住んだボロアパートを結婚を機に引っ越すことになった
荷物の整理をしているとコロンと転がってきたのである
表紙の柄も忘れていた
七年前か、パラパラとめくる
うおおお、懐かしい、
学生時代の思い出が滲み出る
気づけば片づけもそこそこに読みふけってしまっていた
そうだった、七年前といえばちょうど玲奈と出会った頃だ
そろそろ登場するはず
確か8月だった
大型で強い台風は予定していた合コンを狂わせた
当初、5対5で行うはずが遠方のメンツがキャンセルになり
2対2という少人数のご近所メンバーで行うことになる
馴染みの居酒屋も早めに閉めるとか言い出して
閉め出された僕たちは一番近い僕の家で飲み直すことになった
結局、それがきっかけで
あの時、もし台風が逸れていたら僕たちも逸れていたかもしれない
出会いの日まで読み進めようとした時、玲奈が声をかける
一平くん、こら、全然手が動いてないぞ、
ん?何か読んでるの?
え?な、なんでもないよ
そういえばさ、僕たちが出会った日に来た台風の名前覚えてる?
問いかけながら自分も思い出す
あー、確か
全然台風っぽくない名前だったよね
そうそう
お日様みたいな
あー、思い出した
せーの、で言おうか
せーの
サンサン!
『私の日記帳』
僕は知っている
この日の為に先輩が一生懸命練習していたことを
1980年代初頭
漫才ブームで一世風靡した伝説のお笑いコンビ、オーマイガット師匠
オチの部分で必ずやるあの台詞
真似しやすいその動きと台詞は老若男女から愛され
誰もが一度は真似したことがある、と言っても過言ではないくらい浸透したネタ
それから40年余りの間に
様々なバージョンが開発され
何周も回って使い古されたネタでもあった
多分、先輩は敢えてそこを狙ったんだろう
僕らの課は二人だけで正直、あまり日の目を浴びる部署ではない
日々裏方に徹して他の部署と接する機会も少ない
会はピークに達していた
全社員が一斉に集う年に一度の恒例儀式、忘年会
毎年、最終この時間になると社長の気まぐれで指名された社員が舞台に上げられ
一発芸を披露させられるのである
陰キャには地獄の儀式
次は私かもしれない、
指名が起こる度、心臓がバクバク鳴る
社長が全員を見渡す
じゃあ、次は、、髙橋!
髙橋くん行ってみようか!
一瞬、私もドキッとした
えっ!!隣にいた先輩の声が漏れる
青白い顔で先輩が一瞥をくれる
私も視線を送る、先輩、、頑張って下さいと
震えているのがわかった
たーかはし!!たーかはし!!イエーイ!!
営業部がノリノリで盛り上げる
が、先輩が舞台に上がった瞬間、なぜか歓声が途切れてしまった
先輩があまりにも緊張しているのがこちらに伝わったからだろう
た、た、髙橋です
い、い、い、一発ギャグやります
あまりの緊張感に逆に全員が注目する
静まりかえる宴会場
先輩のか細い声が静かに響いた
お、お、お、オーマイガッ
最悪の結末であった
やり尽くされたネタで声量も動きも中途半端
拍手すら起きない
あまりにもスベると人はどうしたらいいのかわからなくなるんだろう
先輩はあろうことか舞台で泣き出してしまった
そこにいる全員がやるせない気持ちで余計に最悪の雰囲気になる
誰か救助に向かわなくては、
営業部の三平が助け船をだすぞ、と立ち上がろうとした、
その時であった
オ、オ、オ、オーマイガッ!!!
オ、オ、オ、オーマイガッ!!!
オーマイガッ!オーマイガッ!!オーマイガッ!!髙橋でーす!!
先輩が急にぶっ壊れたのである
髙橋!!オーマイガット体操はじめまーす!!!
イッチニッ!オーマイガッ!
サンッシッ!オーマイガッ!!
吹っ切れた人を見るのは清々しい
謎の動きに合わせて手拍子がなる
歓声と笑いが怒号の様に鳴り響く
仕舞いには何度も謎の動きを繰り返す先輩に合わせて全員で合唱が始まった
イッチニッ!!オーマイガッ!!
サンッシッ!!オーマイガッ!!
これが語り継がれる伝説の髙橋
今まで影であった私達の部署に光が差し込んだ、あの時の話
『やるせない気持ち』