僕は知っている
この日の為に先輩が一生懸命練習していたことを
1980年代初頭
漫才ブームで一世風靡した伝説のお笑いコンビ、オーマイガット師匠
オチの部分で必ずやるあの台詞
真似しやすいその動きと台詞は老若男女から愛され
誰もが一度は真似したことがある、と言っても過言ではないくらい浸透したネタ
それから40年余りの間に
様々なバージョンが開発され
何周も回って使い古されたネタでもあった
多分、先輩は敢えてそこを狙ったんだろう
僕らの課は二人だけで正直、あまり日の目を浴びる部署ではない
日々裏方に徹して他の部署と接する機会も少ない
会はピークに達していた
全社員が一斉に集う年に一度の恒例儀式、忘年会
毎年、最終この時間になると社長の気まぐれで指名された社員が舞台に上げられ
一発芸を披露させられるのである
陰キャには地獄の儀式
次は私かもしれない、
指名が起こる度、心臓がバクバク鳴る
社長が全員を見渡す
じゃあ、次は、、髙橋!
髙橋くん行ってみようか!
一瞬、私もドキッとした
えっ!!隣にいた先輩の声が漏れる
青白い顔で先輩が一瞥をくれる
私も視線を送る、先輩、、頑張って下さいと
震えているのがわかった
たーかはし!!たーかはし!!イエーイ!!
営業部がノリノリで盛り上げる
が、先輩が舞台に上がった瞬間、なぜか歓声が途切れてしまった
先輩があまりにも緊張しているのがこちらに伝わったからだろう
た、た、髙橋です
い、い、い、一発ギャグやります
あまりの緊張感に逆に全員が注目する
静まりかえる宴会場
先輩のか細い声が静かに響いた
お、お、お、オーマイガッ
最悪の結末であった
やり尽くされたネタで声量も動きも中途半端
拍手すら起きない
あまりにもスベると人はどうしたらいいのかわからなくなるんだろう
先輩はあろうことか舞台で泣き出してしまった
そこにいる全員がやるせない気持ちで余計に最悪の雰囲気になる
誰か救助に向かわなくては、
営業部の三平が助け船をだすぞ、と立ち上がろうとした、
その時であった
オ、オ、オ、オーマイガッ!!!
オ、オ、オ、オーマイガッ!!!
オーマイガッ!オーマイガッ!!オーマイガッ!!髙橋でーす!!
先輩が急にぶっ壊れたのである
髙橋!!オーマイガット体操はじめまーす!!!
イッチニッ!オーマイガッ!
サンッシッ!オーマイガッ!!
吹っ切れた人を見るのは清々しい
謎の動きに合わせて手拍子がなる
歓声と笑いが怒号の様に鳴り響く
仕舞いには何度も謎の動きを繰り返す先輩に合わせて全員で合唱が始まった
イッチニッ!!オーマイガッ!!
サンッシッ!!オーマイガッ!!
これが語り継がれる伝説の髙橋
今まで影であった私達の部署に光が差し込んだ、あの時の話
『やるせない気持ち』
8/25/2024, 10:45:17 AM