二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した
悟られないよう
硬く唇を縛り、目をつり上げ、大したこと無いよ、と憮然とした表情で少し顎を引く
本当は胸の奥まで動悸し血の気が引いて
返事の仕草を返すのがやっとであった
でも最期まで諦めない
私は幼い頃からぶっきらぼうで
何かにつけて喧嘩をふっかけ制圧する
何でも一番になりたくて
弱い者は朽ちて知るべし、と強がっていた
いつか私が天下を取る、と高らかに主張する
周りには誰もいなくなっていた
でも、二人はいつも笑っていた
二人だけがわかってくれた
全くの脳天気が心地良かった
未来の将軍様
お前が天下を取ったら俺達を大臣にしてくれよな、右大臣と左大臣で
私達は野戦で名を挙げ
刃向かう敵をなぎ倒し
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
今夜、天下はもうこれ間近
手の内側まで転がってきた
だけど、最後で溢れ落ちた
城が焼ける
悲鳴が聞こえる
バチバチと音を立て赤く染まる部屋で
二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した
本当の名前もまだ教えて貰ってないのに
喉が焦げる
刀を手に取る
黒煙が舞う
視界が燃える
蝶よ、花よ
視界が燃える
まだ諦めない
『蝶よ花よ』
ええっ?!
最初から決まってた?
えっ?なにそれ、どういうことですか?
あんなに我慢したんすよ、七年すよ七年
あんななんもないとこに七年も閉じ込められて
やっとこさ出てられて
よっしゃこっからが本番じゃい!
みとれよ俺の魂の叫び、生命の熱り、全集中で燃やしてやるぜ!!
つった直後に
網で採られて、カゴに入れられ、
近くでみるとマジでキモいとか、
夜に鳴くなようるさいな、とか言われて、結局飽きられて、なんかそのまま放置プレイでチーン的な
え、あれ、全部最初から決まってたんすか?
なんなんすか、マジで
え、なに?
次はウナギにするから、じゃあないんですよ
似たようなもんじゃないですか、ウナギも
今回、選択肢は少なかった中でこれ選んだのも
我慢して我慢して、解放されてからあの限られた1週間で自分の生命をどこまで高められるか、そこに込められた熱い想い的なのを感じたかったから選んだんすよ
限られた時間の中で最愛のパートナーと出会い
短いけれど灼熱に燃えたぎって添い遂げる的なの、意外といいかもな、つって
土の部分我慢したのに
マジでなんなんすか、最初から決まってたとか
え?なんすか?
わかった、次はナマコにする?
似たようなもんじゃねーか、なんでさっきからニョロニョロ系なんだよ、いい加減にしろ
『最初から決まっていた』
あちゃ~、やってもうたわ
呟いたのが聞こえたらしく少し離れたデスクから同僚がのぞき込む
どうしたんすか先輩
いやさ、最近、設定おかしくなってたからちょっとイジってたんだよ、
調整して少し下げとこうかなあ、とかってさ、
そしたら消すつもりなかったのにミスって消してもうたんだわ
これ戻せるんだっけ?
いや、確か無理っすね
デカ目のヤツですよね、デカいのは確か無理っすよ
だよな~、これどうしよっか
このままだと全部バラバラになっちゃうよな
あー、それ中心に周ってた感じすか
まあいいんじゃないすか?その辺飛ばすくらい、どうせどこにも当たんないっすよ
いやそれがさ、いるんよ
えっっ!?いるんすか?
そう、しかもめっちゃいるんよ
ええーっ!マジっすか
それやっちゃったすね先輩
まあでも、一瞬で消えたならまあまだ良かったというか、まだマシじゃないですか?
いや、違うんよ
周ってる方にいるんよ
ええっ!!周ってる方にいるんすか?
それちょっとヤバイっすね
どれくらいいるんですか?
確かね、知能系だけで70億くらいだったかなあ、、
70億!知能系70億はヤバイっしょ、さすがに
そうなんよ、結構ヤバイんよ
びっくりしたやろうね
そうっすね、急に消えたからびっくりしたでしょうね
これどうしよっか
どうしますかね、、
とりあえず代わりになんか置いといたらどうですか?
同じくらいの大きさのやつ
バラバラになったらもうお仕舞すよ
そうだな、さすがにそのままはちょっと申し訳ないよな
大きめのバナナ置いとくか
色も似てるし
そう、、すね
でも寒くないですかね
そうだな、寒いよなやっぱり
ん~、、温めたの置こうか?
あ、それいいっすね
温かいバナナ置いときましょ
消したのこの辺だったかな、、
お、やっぱあんまり違和感ないな
あ、周りだしたわ
あ、周りだしたっすね
良かったすね
多分気づかないすよ
は~、焦ったわ
『太陽』
思わず息をのんだ
想像していた何十倍もでかい
その装飾は誰の目にも美しく、力強く
幾千の人々により幾千万の時を経て、手厚く重厚に奉られ、敬われているのが一目で伝わった
怯んだ気持ちを悟られない様に独り言に混ぜ聞こえる様に呟く
ああ、意外とこんな感じか、
しかしデカいなこれ、全体が収まる様に撮れるかな
平然を装ったけど、膝が震えている
これはマジで絶対にヤバいヤツだ、
見ているみんなも察している
これは絶対に触っちゃダメなヤツだろ、て
だけどもう後には引き返せない
これだ、これを叩いたら絶対にバズる
千年の鐘の話を聞いた時、私は高揚した
千年に一度だけ叩く事が許される伝説の鐘
文献だと次に叩けるのは511年後らしい
前倒しで叩いてみた、ってタイトルで実況動画出したら絶対にバズるやろ
これで私もヒーローになれる、て
神々を装飾した巨大な黄金の鐘
槌を構える
警告が鳴る
千年に一度なら私は何人目だろう
警告が鳴る
世界に繋がっている、私がヒーローだ
警告が鳴る
思いっきり振りかぶって
警告が鳴る
警告が鳴る
『鐘の音』
つまらないことでもあったんでしょう?
多分、私なんだろう
目線は真っ直ぐこちらに向いている
が、私じゃない可能性もある
一旦後ろを確認する
やっぱり私に向けた言葉の様だ、後ろには誰もいない
はっきり聞こえた私への問いかけ
でも一旦聞き返してみる
何かの間違いかもしれない
えっと、、え?つまらないこと、ですか?
辿々しく聞き返した言葉が終わる前に男は再び口を開けた
ああ、やっぱり!
だと思った、そんな浮かない顔してるから
その話詳しく聞かせてもらいましょうか
ちょっと待って欲しい、まるで私の言葉が届いていない
男は続ける
飲みにいきますか、近くに行き着けのバーがあるんですよ
あ、申し遅れました
ワタクシ、つまらないこと探偵団で営業してます三平と申します
こう見えても職業柄ですかね、つまらない匂いには敏感なんですよハッハッハ
ゲッチュー、なんちゃって
困ったことになった
意味が全然わからない
なんかめちゃくちゃ笑ってる
仕事で疲れた帰り道
街角で偶々目があったヤツにグイグイこられるほど怖いことはない
ちょっと急いでるので、
私は逃げることにした
声のトーンを下げ顔は見ずにその男の横を強引に渡る
通り様にその男が呟いた
あの時の言葉を今でもたまに思い出す
その男とはその一度きりで
それから何もないんだけど
なんでだろう?なぜだかたまに思い出す
「またつまらない日々から逃げるのね」
『つまらないことでも』