やさか

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2/9/2024, 3:48:11 PM

 あなたが慈しんだのは、白。
 ぱっと華やかな赤よりも、つややかに深い青よりも。
 あなたの心の深くに根ざして、やがて咲いた色。
 いつかなにもかも思い出になっても、忘れはしない。
 かすみ草の花束を抱えた、あの日のあなたのことを。


 #花束

2/8/2024, 4:03:43 PM

 ほとんど、目だけで笑うひとだった。
 くちびるの端は、かすかにひきつるようだった。
 笑うのが下手で困るのだと言っていた。
 でも、あのひとの瞳はあんなに柔らかく光っていた。
 明け方に融けてゆく雪のように静かで、優しかった。
 あのひとの、そんな笑いかたが好きだった。
 その目を覗き込む相手にだけわかるものがあった。
 わたしはそれを知っていた。
 そして、きっと忘れない。ずっと。


 #スマイル

2/7/2024, 3:29:27 PM

 あなたが好きだった歌を歌うとき、踏み外す一音。
 あの秋の水溜りに立って頬に感じた風の色。
 空気を引っ掻くように掠れた笑いかた。
 差し出されたフォークの先にあったケーキの味。
 誰にも教えなかった恋。
 一度も口にしなかった、とっておきの愛の言葉。


 #どこにも書けないこと

2/6/2024, 3:26:48 PM

 さよならを刻んで、明日が来る。
 おやすみを刻んで、夢を見る。
 刻まれる一秒を見送って、見送って。
 そうして胸の内側に刻まれたものを、思い出と呼ぶ。
 わたしだけの傷跡を、生きていく。


 #時計の針

2/5/2024, 2:28:34 PM

 溢れたら、溢れたぶんだけ失くしてしまうと思った。
 わたしの外側に零れ落ちて、消えてしまうと思った。
 どれだけ大事にしていても、そうなると信じていた。
 ひと雫だって忘れたくなかった。
 これはわたしのものだ。わたしだけのものだ。
 そうして抱えて生きてきた。
 ぴんと張り詰めた水面、美しく濁ったわたしの心。
 そして、今。
 そこに触れようとするあなたの指を、予感している。
 初めて何かが壊れるだろうときを、待っている。
 どうしてか。どうしてか。


 #溢れる気持ち

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