彼は、愛しているとは言わなかった。
真正面から好きだなんて言ったことも、ない。
それでも、わたしは知っていた。
憎まれ口を叩いても、どこか柔らかに緩む瞳の奥。
髪を掻き回すとき、けっして雑にはしない指先。
どこか赦しを乞うようにして頬に触れるくちびる。
わたしが眠りに落ちる直前に掛けられる静かな声。
愛しい人。
わたしは同じようにできていましたか?
あなたを上手に愛せていましたか?
#恋物語
それは、午前一時に花ひらく。
月もなく風もない、雲ひとつない星空を仰いで。
誰の目も届かぬ摩天楼の上、彼女の手のひらに。
淡い淡い青を、十重二十重に装う花芯の淡黄。
一夜限りに甘く香る。
花以外の何も持たず、ただ溢れるような絢爛。
誰のため? なんのため?
それは、真夜中に天の河をお渡りになる神様のため。
千年を生きる彼女の罪を赦していただくため。
#真夜中
わたしに『こう』させたことを、生涯忘れずにいて。
君のために、わたしが選んだことを。
でも、別に、悔いる必要はない。
わたしはこんなにも晴れやかな気持ちで死んでいく。
君が幸せになるためになら、なんでも、いくらでも。
わたしの全部だってあげると言ったでしょう。
だから、誇って。
いつかの日、君が迷い苦しむ日にも、思い出して。
君にはその価値があると、わたしが認めたことを。
苦い後悔に俯かないで。
背を押されたのだと思って、顔を上げて、生きてね。
#後悔
あんた、子供のままで百年も生きて、それで結局、そのまま死ぬんだね。
そんな言葉に、二人、笑い合う。
そうだねえ。わたしはずっと子供のままだった。
百年。百年か。
でも、あの世でもきっと、わたしはこの、馬鹿みたいなわたしのまま。大人になんてならないまま、あなたを待ってる。
ほら、こんなにピュアな瞳をしてるでしょ。
信じる心で空が飛べそうな目を、してるでしょ?
だから、大丈夫だからね。ゆっくりおいでね。
#子供のままで
届いた、と。その一瞬、確かに思った。
この喉をついた言葉にならない声が、あなたに。
あなたと目が合った瞬間、幽かに揺らめく瞳の光が、見開かれてパッと強くなった。
そこにある輝きは、ちゃんと、わかっていた。
そのように見えた。
それは繋がりだった。
手を取り合うよりも、口づけするよりも。
ずっと愛おしい、あなたとの疎通。
言葉にならなくても、伝わる。
あなたになら。
あなたとなら。
#愛を叫ぶ。