やさか

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5/8/2023, 12:06:34 PM

 まだ生きていた。まだ死んでいなかった。
 もう立てないと思っていたのに、まだ歩いていた。
 どこに辿り着かずとも、進んでいた。
 逃げるようにではなく、目指すために。
 馬鹿馬鹿しいほど往生際悪く、呆れるほど愚かしく。
 ひとつ、ひとつ、手にとっては捨てて。
 ひとつ、ひとつ、踏みしめては過去にする。
 あれから一年。
 まだ行こう。もう少し。もう少し。
 あと一歩だけでも。


 #一年後

5/7/2023, 12:46:18 PM

 それまで恋だと思っていたものが、そうじゃなかったと思った。
 それまでもっと優しいものだと思っていた気持ちを、そうじゃなかったと思った。
 それまで無欲でいられると思っていた自分が、そうじゃなかったと思った。
 そんなこと、知りたくなかった。
 そんなものに、出会いたくなかった。
 そんな日に、来てほしくなかった。
 なのに、もう遅い。
 待っていたわけじゃない。訪ねたわけでもない。
 ただ、それはわたしを通り過ぎていった。
 なかったことにはならない。忘れられない。
 こんなにも遥か遠く過ぎ去った、今になっても。


 #初恋の日

5/2/2023, 11:53:12 AM

 わたしに微笑まないでね。
 わたしに触れないでね。
 わたしに話しかけないでね。
 わたしのために泣かないでね。
 わたしのために頑張らないでね。
 全部、あなた自身のために取っておいてね。
 わたしはなんにもいらないから、あなたが、きっと幸せになってね。
 わたしに優しくしないでね。
 あなたが、あなた自身に優しくしてあげてね。
 きっとよ。きっとだからね。


 #優しくしないで

5/1/2023, 12:01:58 PM

 そこには、この世で目にした色が全部あった。
 どんな白も、どんな黒も、どんな赤もどんな青も。
 君の瞳の色、君の爪の色、君の勝負ワンピの色。
 あの日の夜空の色、星の色、咲いていた花の色。
 全部覚えていた。全部、僕の中に残っていた。
 目を閉じる僕を覗き込んで泣いた、君の涙の色も。  


 #カラフル

4/30/2023, 1:53:29 PM

 どこか淡い色の光の中で、やさしい花の香りが涼しい風に漂っていて、ささやかに鳥が鳴き交わす木陰に、雨は絹のようにさらさらと降り……。
 わたしはそんな楽園にいたことがあるんだよ、と彼女が笑う。
 僕が、どうしてずっとそこにいなかったの、と尋ねると、彼女はもっと笑う。
 彼女はただ、君がいなかったからさ、と言う。
 そうして、幸せそうに笑っていた。ここが楽園だっていうみたいに。


 #楽園

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