「ねえ。もしさ、流れ星見たらどんな願いごとする?」
君は僕にそう問うた。
「どうしたの、急に。」
「いや、なんとなく。」
そういった君の顔には「何となくなんかじゃないよ」って書いてあった。
君は隠し事をするのが苦手だ。
前に、僕の誕生日をサプライズで祝ってくれた時、1週間前から様子がおかしかったよね。
会う度会う度、そわそわして、見てて滑稽だった。
僕の誕生日の日、予想通り君はサプライズをしてくれた。
その時君は、サプライズが成功したと思って誰よりも喜んでた。
そんな純粋な君が僕は心から好きだ。
LoveじゃなくてLikeのほう。
そんな君だから、今回「流れ星に願い事をする」ことに対して、何か隠してるんだろうな。
君は純粋な上に、優しい。
僕を傷つけまいと隠し事をすることも多い。
流れ星の話をして数日が経った。
君は深刻そうな顔をして僕に話しかけてきた。
「話があるんだ。」
「うん。どうしたの?」
「僕、引っ越すんだ。」
ああ、そういう事か。
「僕、昨日流れ星を見たんだ。引っ越したくない、君といつまでも友達でいたいって願ったよ。」
掠れそうな、消えてしまいそうな、弱々しい声でそう言う。
「いつなの?引っ越し。」
「次の土曜日。」
あと三日しかない。
君は僕が傷つかないようにギリギリまで迷っていたんだね。
言うか言わまいか。
気を使わないように、ギリギリになってから言った。
君らしい。
嫌だ。
本当は君と離れ離れで過ごすのはとても嫌だ。
でも、そんなことを言ったら、優しい君は困ってしまう。
だから、僕は泣きそうな笑顔でこう言った。
「そっか。元気でね。」
それともう1つ。
「明日遊びに行こう。どこがいい?」
なるべくいつも通りを装いたかった。
僕が今、流れ星を見たのならば、願いは2つ。
───君がいつまでも傍にいてくれますように。
──────君といつまでも友達でいられますように。
この国のルールは、決して空を見上げないこと。
何故かは誰にも分からない。
いや、厳密に言えば、大人は知っている。
でも、僕ら子供には空を見上げてはならない理由が分からない。
だから、僕らは空に大きな憧れを抱いて過ごしてきた。
───空を見上げてはならない。それは、現実を知って自死する人が増えたから。
私は今年、20歳になった。
20歳になると、子供の頃に夢描いた空の事実を知らされる。
この国では、空を見てはならないどころか、飛行機にさえ乗ることは出来ない。
なぜなのだろうか、と疑問に思ったことはあるが、誰一人として教えてくれる人はいなかった。
20歳になると、1度だけ、空を見せてもらえる。
私たちが夢見た空は、絵本で書いてあるような青い空ではなかった。
真っ黒だった。
光は人口のものを当てているだけ。
1度、一瞬の方が正しいかもしれない。
それからは、もう二度と見せて貰えない。
真っ黒な上に、空には透明の覆いがされていた。
この国をドーム型に包み込んでいるのだとか。
真っ黒な汚染された空気から私たち人間を、生物を守っているのだという説明を受けたが、きっと違うのだろう。
確かに、幼い子供が聞けば、絶望を感じるに違いない。
実際、私たち20歳になった人間が、事実を知らされた日と、その次の日は、その人たちだけは休日になる。
仕事に身が入らないからだ。
無論、私も何も考えられなかった。
私たちは一生、この暗闇に包まれたこの国で生きていかなければならないのか。
僕は20歳になったときの空を見るときを夢見て生きていくんだ
───私はこの現実からどうやって立ち直ったらいいんだろうか
昨日は嫌なことだらけだった。
なにかしている事も、本当は何も出来ていないことも。
呼吸をしていることも、存在していることも。
生きていることが嫌な日だった。
その前の日も、その前の日も。
ずっとそんな日々。
だから、昨日は、じゃなくて、昨日も。
毎日毎日僕の心は真っ黒。
雨模様とか、そんな綺麗なものじゃない。
鉛筆でぐしゃぐしゃに適当に塗りつぶされた色。
真っ黒に染っているわけでもないのに、黒い。
嫌なことばっかり考えて、心の中は真っ黒。
今日は、どうだろう。
きっといつもと同じだ。
でも、ほんの少しでいいから、僕の心に灯りが欲しい。
灯りじゃなくてもいい、綺麗さが欲しい。
僕が願う心は、雨模様。
僕は正解を探していた。
学校の宿題の答えじゃなくて、
どうしたら君と友達でいられるかを。
僕らが出会って5年が経った。
僕らの出会いは、ごく普通の、中学の入学式の日。
何か特別なことがあったわけではない。
僕の後ろの席が君だっただけ。
僕は小学校卒業の時に引っ越したばかりだったから、友達なんかいなかった。
そんなときに、少しずつ喋り始めたのが君だった。
ごく普通の出会いから、僕らの仲は特別なものになった。
僕らは周りから見たら、親友と呼べるものだろう。
でも、君と出会って5年が経った今、僕は引越しを控えていた。
父の転勤が多いために、幼稚園の頃から転校を繰り返していた僕にとって、君は1番の友達だった。
僕は君に問うた。
「僕が引っ越しても友達でいてくれる?」
君は答えなかった。
君はそういう人だ。
肝心な時は少し逃げる。
遂に、引越しの日になった。
君と出会って、仲を深め合った日々がたとえ、間違えだったとしても、僕は君と友達になれて嬉しかった。
僕だけは、いつまでも君と友達でいたいと思っている。
父に呼ばれた。
「もう出発するぞ」
「うん」
「待って!」
車に乗り込もうとした僕に話しかけたのは君だった。
「これ、持って行って」
君は手紙を渡してくれた。
「またね」
君は言った。
手紙にはこう書いてあった。
───「いつまでも僕の1番の友達でいてください」
僕の目に映る世界は、色がない。
いや、厳密に言えば、ちゃんと見えている。
でも、僕の過去や将来を考えた時、僕の人生には色がない。
特に、未来の方は、何も映らない。
僕には将来の夢がない。
前は確かに、あった。
でも、それは夢の見すぎだって気づいた。
だから、僕はそんなに大層な夢を抱いてはならない。
将来の夢がなければ、今から進むべき道も分からない。
だから、僕の将来は何も映らない。
こんな僕が、皆が想像する色鮮やかな世界に向かって歩いていても良いのだろうか。
僕は皆と違う。
皆より劣っている。
僕は世界の中から消えてしまった方がいいのでは無いだろうか。
僕の真っ黒な感情が渦巻く。
感情は無色で、何も映らなくていいのに。
なんで映らなくていいものに色がついてて、映って欲しいものに色がないんだろう。
僕の存在には色があるんだろうか。