卒業式の日に満開だった桜は日を追う事に色を失う。
僕の心も日を追う事に沈んでいく。
僕にとって、高校生活はかけがえのない宝物だった。
そして、日常だった。
そんな日々が突然、変わってしまった。
自分で望んだ大学進学。
でも、入学式も終わり、大学生活が日常になりつつある、現在。
何故か、少し、寂しい。
大学進学を機に、地元を離れた。
地元と同じことは、空と桜の木だけだった。
僕の高校は、桜が綺麗に咲く。
卒業式の日、満開の桜が僕らの門出を祝した。
大きく咲き誇った、桜は、心から僕たちの門出を祝ってくれているようだった。
引越しをして、一人暮らしを始めたが、近くに大きな桜の木があった。
その木は、あの時と同じように、大きく咲き誇っていた。
それが、僕と高校生活を繋ぐ架け橋のようなものだったのだ。
毎日桜の木を見て、高校生活を思い出した。
その桜も散ってゆき、色を失った。
僕の頭の中にある、高校生活も白黒画像のようになった。
寂しい以外の言葉が見当たらない。
植物は僕と過去を繋ぐ。
来年の桜を見る頃に、僕はまた、色のついた高校生活を思い出す。
僕には夢がない。
高校の国語の授業での卒業制作、お題は、『自分』
今までの自分と、これからの自分について。
すなわち、過去と未来。
夢。
僕は、自分が嫌いだ。
高校生活の中で、心を壊し、鬱になった。
鬱になると、自分の何もかもが嫌いになる。
今までの自分も、今の自分も。
もちろん、夢なんかなくなる。
最後に夢を抱いたのはいつだろう。
「僕の将来の夢は××です」
僕の小学生の頃。
将来の夢について発表する機会があった。
きっとその時は、はっきりと何かの職業を言ったのだろう。
今、思い出してみたら、ノイズで何も聞こえない。
何も覚えていない。
僕は卒業制作に綺麗事を並べた。
僕の人生は楽しかった。
僕のこれからの人生は明るい。
夢は。
なんだろう。
僕は何になりたいんだろう。
毎日毎日、僕は愛を叫ぶ。
それでも、この愛は届かないことを知っている。
「好き」
「かわいい」
言い続けたら照れるのを僕だけが知っている。
だって、こんなにしつこく好きだと叫ぶ人は僕以外居ないから。
でも、本気にはしてもらえないよね。
あなたに会うためだけに学校に行く日々。
僕は学校が苦手だ。
でも、あなたは学校でしか会えないから。
僕は毎日、重たい体を起こして学校に向かう。
朝の会議が始まる前に、あなたに会いに行く。
授業に来たあなたと喋る。
部活が始まる前にあなたに会いに行く。
遅くまで勉強のためという口実で教室に残って、あなたが「帰るよ」と言いに来るのを待つ。
あなたに会えない日は学校に行く意味が無いくらいに、僕にとってあなたは僕の心の中心だった。
でも、僕の愛は届かない。
だって、僕とあなたは、生徒と教師の関係だから。
僕は神頼みが好きじゃない。
まず、そもそも、神なんか居ない。
顧問に嫌われたり、
親に束縛されたり、
必要以上の期待を背負わされ、応えきれなかったから、責められたり、
練習量も実力も1番になったのに、年功序列で、選手から排除されたり。
神様がいたら、僕の努力を見てくれているはずなのに。
神様がいたら、何かはマシなはずなのに。
神様がいないから、努力は報われないし、人間関係も恵まれない。
そう考えるしかない状況で生きてきたから。
僕の周りの人間は、よく神頼みをする。
“勝てますように”だとか
“担任が誰々でありますように”とか。
みんなの中に神様はいるんだろうな。
きっとみんな努力が報われ、人間関係も恵まれている。
僕の中に神はいないし、きっと心は誰よりも荒んでいる。
今の僕は人を妬むことしかできない。
こんな心の荒んだ人間だから、神が近くに居てくれないのだろうか。
神を信じれば、神は何かしてくれるのだろうか。
きっと関係ないだろうな、前にも同じことを思って神様に願い事をしたけど、叶えてもらえなかったんだから。
その時の僕の願いは、些細なことだったのに。
僕の唯一心を許せる先生に来年も教科担当をしてもらうこと。
なのに。
その先生は転勤したんだ。
こんな些細な願いも叶えてもらえなかったら、何も期待したく無くなる。
神なんていてたまるか。
今、神になにか聞けるとするならば、
“神様は本当にいますか”
と聞きたい。
きっと答えなんか帰ってこないだろうけど。
空を見上げる。
雲ひとつない真っ青の空。
僕はコンビニ弁当を片手に、ベンチに腰かけていた。
10分前に昼休みに入り、やっと見つけた1人になれる場所。
昼休みは残り20分。
本当は定食屋にでも行こうかと思ったのだが、とても混んでいて、並ぶのを諦めたのだ。
コンビニに寄り、会社に戻った僕はこのベンチを見つけた。
澄み渡る青さが気持ちいい。
会社の裏ということもあり、静かで落ち着く。
コンビニ弁当を開け、手を合わせ、小さな声で「いただきます」と言う。
今日も幕の内弁当にした。
卵焼きから食べるのが僕の食べ方。
うん、いつも通り、美味しい。
しばらく食べていると、誰か来た。
同じ部署の部下だった。
彼は不器用で、仕事も遅い。
その分、丁寧なやつだった。
彼は向かいのベンチに座った。
彼も昼ご飯を食べにきたようだった。
僕が食べ終わり、立ち去ろうとすると、彼は僕に話しかけた。
「あの」
「ん?」
「相談があるんですけど…」
彼は僕が1人になるのを待っていたらしい。
ポツリポツリと彼は話し始めた。
この青く澄み切った空に似つかわしくない、とても大きな悩みを。