瑪瑙

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4/7/2024, 11:59:02 AM

チームの前キャプテンであり、僕の憧れでもある先輩は僕を海に連れ出した。


「お前がいてくれたからここまで来れた。」
「本当にありがとう。」

───違う、僕がいたから負けたんだ。
  僕さえいなければ、優勝できたのに。

僕は昨日の試合の大一番でミスをし、チーム初の全国優勝を逃した。
嫌な考えが頭を巡る。
試合から1日経っても同じ考えしか頭に浮かばない。


夕方4時頃。
先輩は僕の家にやってきた。先輩は強引に僕を外に連れ出し、車に乗せた。しばらくして着いたそこは、海だった。先輩は堤防に腰掛けた。

「なぁ。昨日の試合見てたぞ。」

───もう、思い出させないでくれ。

「お前はよく頑張った。」
「俺はいい加減だったから、俺のあとのキャプテンは大変だっただろ。ごめんな。でも、ありがとう。あんな景色を見せてくれて。」

僕の頬を涙が流れる。

「みんなにとっては、頼りになるキャプテンだろうけど、俺にとってはいつまでも可愛い後輩だからな。もっと甘えろ、先輩の俺に。」

前が見えない。
苦しい。

先輩は僕を抱き寄せた。先輩はそれ以上何も言わなかった。先輩の胸の中は温かかった。苦しい鎖が解けていく。僕の背中を摩る先輩の手が、ひどく落ち着く。

「ごめんなさい。」

「大丈夫。全部吐き出せ。」

僕の頭の中に昨日の試合が鮮明に蘇る。体育館の匂い、ボールをつく音、シューズの擦れる音。監督の声、声援。時が戻る。高揚感も、焦りも、苦しさも。

「辛かったな、全部背負わされて。」

嗚咽が混じる。

「大丈夫。大丈夫。お前を責めるやつなんかいない。」


夕日が沈んでいく。いつまで経ってもこの傷は癒えることはないだろう。だけど、ほんの少しだけ。吐き出した分だけ、心が軽くなっていく気がした。

4/6/2024, 11:26:11 AM

君の目を見つめると、
君の世界に吸い込まれそうになる。
君は“外の世界”が好きだ。
僕らにとって“外の世界”は憧れ。
君は一生懸命に調べていたね。
本を読んだり、たくさんの人に聞いたり。
だから、君の瞳の中には“外の世界”が広がっている。
僕はその君の瞳の中が好きだった。

なのに、
なんで。

君は自ら命を絶った。
君ほど外の世界に行きたがっていた人間はいない。
空の上の君に問うよ。


なんで、君は僕の前からいなくなったの?

4/5/2024, 10:47:47 AM

「今日、ふたご座流星群が見えるんだって。見に行かない?」
彼は映画を見たあと、そう言った。
「君には彼女がいるだろ。彼女と行きなよ。」
僕は言ったが、彼は僕と見に行きたいと言ったので、僕は彼とふたご座流星群を見に行くことにした。



彼と出会ったのは二か月前。文化祭の日だった。大学生になって初めての文化祭で少し浮かれていた僕は、映画研究会の作った映画を見ていた。
「「つまんな」」
僕が発した声は彼の声と重なった。驚いた僕が辺りを見回したときに、
「やっぱりそう思う?」
と言ったのが彼だった。彼は映画研究会の一員なのだそうだ。彼は主役を演じていた。彼によれば、この映画は脚本・監督が部長、部員らがキャストなのだそうだ。彼は、台本を初めて見た時に、面白くないと思ったらしい。だが、部長に言える訳もなく、そのまま渋々演じたのだと、彼は言った。

それから彼とは、何度か映画を見に行った。
僕は友達が少ない。そんな僕とは違い、彼には多くの友達がいる。そして、彼女もいる。そんな彼はいつも僕を映画に誘ってくれる。何故そこまで僕のことを誘ってくれるのだろうかと、とても疑問に思っていた。



僕達は映画館から出て、少し遠い高原までやってきた。辺りはもう暗く、空に星が輝いていた。彼は、展望台に早足で向かい、僕と呼んだ。
「おーい。早く来いよー。」


「なぁ、ほんとに僕でよかったのか?」
展望台のベンチに並んで座る彼に僕は言った。
「いいんだよ、君が良かったんだ。」
なんでそこまで僕を誘うのだろうか。聞いてもいいのだろうか。

沈黙を破ったのは彼の方だった。
「俺はさ、常に周りに友達がいてくれるんだ。でも、友達の前で素の自分を出せたことがない。君といる時間はほんの少ししかないけど、本当の自分でいられるような気がするんだ。」「僕と一緒に映画を見に行ってくれてありがとう。これからも誘っていい?」
彼は大人っぽい。大学1年生とは思えないような、おとなっぽさがある。だが、確かに、僕といる彼は無邪気な少年のようなところがある。素の自分を出すのが難しいのは僕にもよく分かる。僕は答えた。
「いいよ。」
そして、心の中でこう願った。


いつまでも君とこんな関係が続きますように