チームの前キャプテンであり、僕の憧れでもある先輩は僕を海に連れ出した。
「お前がいてくれたからここまで来れた。」
「本当にありがとう。」
───違う、僕がいたから負けたんだ。
僕さえいなければ、優勝できたのに。
僕は昨日の試合の大一番でミスをし、チーム初の全国優勝を逃した。
嫌な考えが頭を巡る。
試合から1日経っても同じ考えしか頭に浮かばない。
夕方4時頃。
先輩は僕の家にやってきた。先輩は強引に僕を外に連れ出し、車に乗せた。しばらくして着いたそこは、海だった。先輩は堤防に腰掛けた。
「なぁ。昨日の試合見てたぞ。」
───もう、思い出させないでくれ。
「お前はよく頑張った。」
「俺はいい加減だったから、俺のあとのキャプテンは大変だっただろ。ごめんな。でも、ありがとう。あんな景色を見せてくれて。」
僕の頬を涙が流れる。
「みんなにとっては、頼りになるキャプテンだろうけど、俺にとってはいつまでも可愛い後輩だからな。もっと甘えろ、先輩の俺に。」
前が見えない。
苦しい。
先輩は僕を抱き寄せた。先輩はそれ以上何も言わなかった。先輩の胸の中は温かかった。苦しい鎖が解けていく。僕の背中を摩る先輩の手が、ひどく落ち着く。
「ごめんなさい。」
「大丈夫。全部吐き出せ。」
僕の頭の中に昨日の試合が鮮明に蘇る。体育館の匂い、ボールをつく音、シューズの擦れる音。監督の声、声援。時が戻る。高揚感も、焦りも、苦しさも。
「辛かったな、全部背負わされて。」
嗚咽が混じる。
「大丈夫。大丈夫。お前を責めるやつなんかいない。」
夕日が沈んでいく。いつまで経ってもこの傷は癒えることはないだろう。だけど、ほんの少しだけ。吐き出した分だけ、心が軽くなっていく気がした。
4/7/2024, 11:59:02 AM