君がいないと苦しくて、けれども近すぎても息ができない。君は確かにそこにいるのに、私の手では掴めない。絶対的で、不確かで、不定形の君。君がいるだけで私は息ができ、君がいないと生きていけない。
依存だなんて、わかっている。けれど、私は君を求め続けるのだ。だって、あの日、あの時から、君は私の酸素になったんだから。
君が空に消えたあの日、大きく開いた窓から入ってきた風が、白いレースのカーテンを揺らしていた。真っ直ぐ落ちる事もできない涙が視界を歪ませる先で、どこにでもあるルーズリーフの便箋が存在を主張するようにカサリと音を立てた。折りたたまれたそれには、君のお手本みたいに綺麗な文字が整然と並んでいる。踊るように滑るインクは、いっそ不自然な程に均一に伸びていて、かすれやインク溜まりの一つもなかった。異様なほど無機質な手書きの文字は、けれど彼女らしいと言わざるをえない仕上がりだ。
愛していた、愛されていた。互いに口には出さずとも、想い合う気持ちは本物だった。ただ、神とかいう傍迷惑で自己中心的で、けれど絶対的な存在が邪魔をした。君の墓には遺体がない。きっと、攫われてしまっただけで死んでもいないのだろう。視えずとも、触れられずとも、そこに君はいるのだろう。僕は君を生涯忘れる事はない。そう、言い切れる程に、気持ちは育ちきっていた。
今も、手紙を開くと思い出す。君の横顔、君の指先、君の仕草。小さな日常すら、忘れられない大切な思い出だ。古いルーズリーフが、擦り切れた脳内のフィルムを鮮明にしてくれる。それだけで、少し救われた気持ちになるのだ。
きらい、キライ、大嫌い
きっと、運命ってやつだと思う。どうしたって、あいつの事が好きになれない。別に何がある訳じゃない。ただひたすらに、欠陥ばかりが目に付いた。どこが悪いと言う奴もいるが、逆にどこが良いと言うのだろうか。根暗で陰険な顔付きに、影口ばかりが達者な口。猫背の癖に尚でかい体格に、骨と皮ばかりの細く脆そうな肢体。見下ろされるのは癪に障るし、鋭い歯も、垂れた細い目も、何もかもが気に入らない。
挨拶代わりの悪態、世間話に皮肉と罵倒。犬猿の仲と呼ぶに相応しい程の嫌味の応酬、罵詈雑言。言葉は互いにぶつかり合うのに、どんなに殴っても、暴力だけは返ってこない。ふとした瞬間見える優しさや気遣いは、私を困らせるには充分過ぎる。どんなに嫌っていがみ合っても私に手は上げないのに、他の人を攻撃する姿はよく見られる。あいつは、得体が知れない。
今日も今日とて毒を吐く。大嫌いなあいつに向けて、最大限の悪意と害意を。言葉の弾幕で、小さな本音を隠してしまえ。
嫌いになりきれない所が、一番嫌い。
君を探して何千里。街を抜け、国を跨いで、海を渡る。記憶を描き、君へ贈れる手土産にして。増え続けるキャンバスを背負って、今日も歩く。この世界に君がいなくても、焦がれる事を止めるなんてできるハズもないから。君の面影と、出会えるもしもに賭けるのだ。だってほら、世界は今日も美しい。絵筆で切り取るその瞬間にも、意味があって当然なんだ。踏み出す先は未知で、素晴らしい。
さあ、今日はどこへ行こうか。
恋は泡沫、刹那の夢だ。池にきっかけという石が落ちて、好きな気持ちが波紋となって広がり、何事もなかったみたいにただ元に戻る。恋って結局、そんなもの。
風が吹いても石が落ちても、最後は凪いだ私のまま。積もった経験は、私の体積を増やしはしても、私の形を変えたりしない。
それは突然、何の前触れもなく訪れた。大きな物音とともに、岩が沈む。浸かりきらない岩肌が私を押しやって、
big love!