雨が降っていた。暗い空と、反射した光にクラクラとした。蛙が、煩かった。あの日の温度を、今でも鮮明に覚えている。それなのに―――
君の声だけが、思い出せない。
梅雨。雨ばかりで憂鬱な、主に6月頃を指す。彼がいなくなって、凡そ10年。雨は、嫌いだ。
――中略――
嗚呼、思い出した。あの日、君が言った言葉を。
走る。ただ、息を切らして。約束を果たす為に。だからお願い。
あの場所で、待っていて。
みんなには無くて、僕にはある特別なこと。
例えば教科書の中身が少し変わっていたり、前に見たはずのニュースがまるきり無くなっていたり、昨日まで元気だった近所のお婆さんが、1週間も前に亡くなっていたりするような、軌道修正されていく世界から切り離された記憶を視る力。
みんなといるのに、ひとりぼっちみたいな疎外感を抱えている。近いのに遠くて、まるでアニメや漫画を見ているような感覚。いつかみんなが、自分の知らない何かになっているのではないかという恐怖に、それでも狂えない自分が憎らしい。
ふらりと立ち寄った公園の先、大きな木の下にある、いつもとは違う何かが目についた。音を立てて開いたそれから出てきた人型の何かが、嬉しそうに言った。
「やっと見つけた、僕のタイムマシーン」
ひとでなし。きっと、私を指すための言葉。
初めに言ったのは、いったい誰だっただろう。両親の葬儀の時か、クラスメイトと言い争った時か。兎に角、産まれて此の方感情の高ぶり等というものを感じた事の無い私をひとでなしと表現するのは妥当だと、子供ながらに思ったのを覚えている。
そう、何も感じない。その筈なんだ。今、握られた手が酷く熱いのも、心臓が嫌に速く跳ねるのも、喉が渇いて言葉が出ないのも、きっと、何かの間違いのはずで、だから。
――また、あなたに会いたいです
そんな優しい顔で笑わないで。私は、貴方なんかに会いたくない。これ以上、掻き乱されたくない。人になんて、なりたくない。ひとでなしであり続けたいのに、貴方が不安そうな、そんな顔をするから。
「……たまに、なら」
笑ってほしいと、思ってしまった。もう、戻れないと心が叫んでいる。嗚呼、本当にどうしてこうなってしまったのだろう。
溶けて消えてしまいそうだ。
夜闇の中で儚く笑う君に、ふとそんな不安を感じた。冷たい風に吹かれた木々が、ザワザワと音を立てる。
君を照らす月
君がいないと苦しくて、けれども近すぎても息ができない。君は確かにそこにいるのに、私の手では掴めない。絶対的で、不確かで、不定形の君。君がいるだけで私は息ができ、君がいないと生きていけない。
依存だなんて、わかっている。けれど、私は君を求め続けるのだ。だって、あの日、あの時から、君は私の酸素になったんだから。