君が空に消えたあの日、大きく開いた窓から入ってきた風が、白いレースのカーテンを揺らしていた。真っ直ぐ落ちる事もできない涙が視界を歪ませる先で、どこにでもあるルーズリーフの便箋が存在を主張するようにカサリと音を立てた。折りたたまれたそれには、君のお手本みたいに綺麗な文字が整然と並んでいる。踊るように滑るインクは、いっそ不自然な程に均一に伸びていて、かすれやインク溜まりの一つもなかった。異様なほど無機質な手書きの文字は、けれど彼女らしいと言わざるをえない仕上がりだ。
愛していた、愛されていた。互いに口には出さずとも、想い合う気持ちは本物だった。ただ、神とかいう傍迷惑で自己中心的で、けれど絶対的な存在が邪魔をした。君の墓には遺体がない。きっと、攫われてしまっただけで死んでもいないのだろう。視えずとも、触れられずとも、そこに君はいるのだろう。僕は君を生涯忘れる事はない。そう、言い切れる程に、気持ちは育ちきっていた。
今も、手紙を開くと思い出す。君の横顔、君の指先、君の仕草。小さな日常すら、忘れられない大切な思い出だ。古いルーズリーフが、擦り切れた脳内のフィルムを鮮明にしてくれる。それだけで、少し救われた気持ちになるのだ。
5/6/2025, 4:34:19 AM