ふわふわでキラキラに輝いている卵焼き。
今まで一番上手く焼けた。
この卵焼きを……大好きなあなたに届けたい。
今の時代だとスマホで写真を撮って送ればいいけど、やっぱり直接届けたいよね。
タッパーに卵焼きを入れ、彼氏の家へ向かう。
インターホンを鳴らすと、彼氏が出てきた。
突然家に来た私を見て、すごく驚いている。
「ど、どうしたんだ?急に来て」
……驚いてるというか、焦ってるようにも見える。
私は持ってきたタッパーを開け、卵焼きを見せた。
「見て見て!今日焼いた卵焼き!今までで一番上手く焼けたんだよ!」
「そんなのスマホで写真撮って送ってくれたらいいじゃないか。わざわざ来て見せなくても……」
「そんなのって……ひどくない?」
「用が済んだら帰ってくれ。今日は忙し――」
「ねぇ、誰よその女」
彼氏の後ろに、私と同い年ぐらいの女が現れた。
「と、友達だよ友達!なぁ!」
イエスと言ってほしそうな顔で私を見る彼氏。
「友達じゃなくて彼女よ!」
もちろんイエスと返事するわけなく、女に私と彼氏の関係をハッキリ言った。
彼氏は「あー……」と気まずい顔をする。
「はぁ?私が彼女よ!何言ってるのよ!」
女も自分は彼女と言い張り、一歩も引かない。
「私とあいつ、どっちが彼女よ!」
「「ねぇ!」」
私と女は、同時に彼氏に問う。
彼氏はしばらく黙り、ゆっくり口を開く。
「こっちが、俺の彼女だ」
彼氏が指を指したのは……彼氏の後ろにいる女だった。
悲しいよりも、怒りが沸いてくる。
「なによ!私の知らないところで浮気して!タンスの角に小指ぶつけて痛い目に遭え!」
彼氏にそう言い放ち、立ち去った。
帰り道、持ってきた卵焼きを食べながら自宅へ戻る。
彼氏への想いも、卵焼きも、すっかり冷めてしまった。
交差点の向かいのビルにある大きいディスプレイ。
今日は彼女のあかねに、愛のメッセージを送るため連れてきた。
ディスプレイに大きく"I Love Akone"と映し出される。
aがoになってしまい、あこねになっていた。
多分、文字が潰れてしまったのだろう。
「あちゃー、どうやら文字が潰れ……」
「あこねって誰よ!わざわざ見せしめに私をここに連れてきたの!?最低!」
「いや、あかね、あれは文字が潰れて……」
「もう知らない!ふんっ!」
あかねは青になった横断歩道を渡り、去っていった。
……まさか一文字違いでフラレることになるとは。
事前に確認しとけばよかった……。
高い建物だらけで人が多い街。
都会に憧れて田舎から出てきたのだが……人の多さに酔ってしまいそうだ。
おっと……危ない危ない。
両手で頬を叩き、気合を入れ直す。
最近都会では、田舎から出てきたての人から金銭や荷物を騙し取る田舎者狩りが流行っているらしい。
俺も気をつけないとな……。
キャリーケースを引っ張りながら、周りを警戒して街を歩く。
「お兄さん……ちょっといいかい?」
お婆さんとすれ違いに声をかけられた。
足を止め、お婆さんの方へ振り向く。
「どうしました?」
「腰が痛くて接骨院へ行く途中だったんだけど、痛みが増してきてねぇ……。よければ、接骨院まで連れて行ってくれないかい?」
お婆さんは曲がった腰をさすりながら言った。
地元でもよく年寄りから頼りにされたから、これぐらいお安い御用だ。
「いいですよ。とは言っても、俺さっきこの街に来たばかりで……。接骨院の場所教えてくれますか?」
「おお、そうだったのかい。忙しいのにすまないねぇ」
「いえいえ、全然大丈夫ですから」
「ありがとうねぇ。もうひとつお願いして悪いんだけど、接骨院へ行く前に、そこのコンビニでお茶を買ってきてくれないかい?喉が渇いちゃって」
お婆さんが指を指した先には、コンビニがあった。
地元にもある同じ系列のコンビニだ。
「これで買ってきておくれ。お兄さんの分も買っていいからねぇ。私の奢りだよ」
お婆さんのシワシワの手から、小銭を手渡される。
「ありがとうお婆さん。ちょっと行って来るんで待ってて下さい」
キャリーケースをお婆さんに預け、コンビニへ向かう。
ちょうど俺も喉が渇いてたから、有り難く買わせてもらおう。
人が良さそうなお婆さんに出会い、幸先がいい。
お茶を二本買い、お婆さんの元へ戻る。
「お婆さん、お待たせ……あれ?」
お婆さんがいないし、俺のキャリーケースもない。
周辺を探すが、どこにもお婆さんはいない。
まさか……俺は田舎者狩りに遭ったのか!?
しかも年寄りに!?
「あのババア!!!」
まだ遠くへは行っていないはず。
だが、いくら探しても、お婆さんとキャリーケースは見つからなかった。
都会は恐ろしい所だ……。
授業が終わり、一気に賑やかになる教室。
最近、気になっている女子がいる。
いや、向こうがこっちを気にしているのかもしれない。
俺が日直ということを忘れていた時に声をかけてくれたり。
授業で先生に当てられて、どこのページの質問か分からなかった時に教えてくれたり。
放課後になっても眠ったままの俺を起こしてくれたり。
彼女の優しさが、俺を救ってくれた。
席を立ち、彼女の元へ向かう。
「君の優しさに感謝している。よかったら、これからもその優しさで俺を救ってくれ。いや、付き合ってくれ!」
俺の気持ちを伝えると、彼女は表情を変えずに口を開く。
「生徒会の活動として注意しただけよ!勘違いしないで!あんたのことなんか1ミリも興味ないから!ふんっ!」
教室にいる皆に注目されながら、思いっきりフラレてしまった。
……とりあえず、席に戻ろう。
おぼつかない足取りで窓際の自分の席へ向かい、椅子に座って、窓の外を見て現実逃避をした。
掛け時計の針が動く音だけが響く暗い部屋。
スマホ画面の時計を見ると、深夜2時だった。
仕事から帰ってきて……22時以降の記憶がない。
どうやら、疲れて寝てしまっていたらしい。
最近残業続きだったから疲れが溜まっていたのだろう。
「ふう……」
天井に向かって深い溜め息を吐くと、暗闇へ消えていく。
再び目を瞑り、寝る体勢に入る。
次の休みの日は少し遠くの方へ出かけて、ストレス発散しよう……。
掛け時計の針が動く音を子守唄にしながら、深い眠りへ落ちていった。