夜空で輝く無数の星。
この星空の下で、僕達の物語は始まる。
「……で、なんで私達は外でマフラーを編んでるのよ」
隣で、マフラーを編んでいる彼女。
その彼女の隣で、マフラーを編んでいる俺。
「このマフラーは俺達二人で紡ぐことで、物語が始まるんだ」
「つまり、星空の下でこうして二人でマフラーを編むことが思い出になるってことかしら?」
「理解ある彼女で助かる」
「あんたがややこしいことを言うからでしょ」
確かにそうかもしれない。
まぁ、そのまま言うのが恥ずかしいから照れ隠しで言ってしまっているんだと思う。
でも、これだけは素直に言いたい。
「これからも、よろしくな」
「まっ、あんたがそう言うなら……よろしくっ」
素直に言ったら言ったで、彼女は照れてしまう。
うむ、なぜか立場逆転してしまった。
なんだか……俺も恥ずかしくなってきたぞ。
俺達は星空の下で、しばらくの間黙々とマフラーを一緒に編み続けた。
誰も座っていない静かなホール。
舞台の上を一人で立つと、まるで世界にひとりぼっちになった気分だ。
息を大きく吸い、声を吐き出す。
だが、声はほんの少ししか出ず、以前のようにホール内に響かなかった。
病気で声が出なくなり、舞台俳優を引退することになった。
……なったというより、そうするしかなかったのほうが正しいか。
最後に舞台へ立って、舞台俳優人生の余韻に浸りたかったが、逆に虚しくなってしまう。
客席から目を逸らし、上を見上げる。
照明が、すごく眩しい。
これからも、照明の光のように輝きたかったな……。
今までの俳優人生を思い出すと、だんだんと光が滲んでいく。
パチ……パチパチパチパチ!
突然ホール内に、拍手が響き渡る。
客席の方を見ると、一緒に舞台の上で演技した仲間達が、拍手をしていた。
感極まってしまい、涙が舞台上にぽたぽたと雨のように落ちる。
「今まで、ありがとうございました!」
今出せる精一杯の声を出しながら、一礼する。
更に拍手の音が大きくなり、ホール内と心にいつまでも響き渡った。
太陽に照らされた白を纏う植物達。
風で揺れる植物達が、寒がっているように見える。
今日の朝は……寒い。
はあーっと息を吐き出すと、白い息が出た。
もう少し、暖かくして出かけたほうがいいかも。
一旦家へ戻り、厚手のコートを着て再び外に出た。
うーん……まだ寒い。
でも、そろそろ行かないと会社に遅刻してしまう。
ひゅ〜〜〜っと、冷たい風が吹く。
ゆらゆら揺れる白を纏った植物達に見送られながら、会社へと向かった。
時計の針の音だけが聞こえる自室。
仕事から帰ってきて、ようやく一人の静かな時間を過ごせる。
時刻は二十二時過ぎ。
我ながら、朝からよく働いた。
「すぅーーー……はぁ……」
大きく、深呼吸をする。
疲れた身体と、疲れた心へ、空気を送り込む。
「今日も一日お疲れさま」と、心に感謝の言葉を送る。
自画自賛だけど、こうして自分で自分を褒めてやらないとやってられない。
「すぅーーー……はぁ……」
もう一度大きく深呼吸し、心へ空気を送って、膨らませた。
今にも切れそうな一本の糸。
先のことなんて誰にも分からない。
勝手に進む時の中で、皆生きている。
今まで、何度も糸が切れそうになったが、結んだり、くっ付けたりして、時の中を生きてきた。
だが、時の中を生きるのは難しいもので、上手くいかないことが多い。
そして今、また糸が切れそうになっている。
ふぅ……このまま糸が切れて楽になりたいが、まだ時の中を生きたいから、諦められないな。
糸を何重にも結び、切れないようにしてやった。