たーくん。

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誰も座っていない静かなホール。
舞台の上を一人で立つと、まるで世界にひとりぼっちになった気分だ。
息を大きく吸い、声を吐き出す。
だが、声はほんの少ししか出ず、以前のようにホール内に響かなかった。
病気で声が出なくなり、舞台俳優を引退することになった。
……なったというより、そうするしかなかったのほうが正しいか。
最後に舞台へ立って、舞台俳優人生の余韻に浸りたかったが、逆に虚しくなってしまう。
客席から目を逸らし、上を見上げる。
照明が、すごく眩しい。
これからも、照明の光のように輝きたかったな……。
今までの俳優人生を思い出すと、だんだんと光が滲んでいく。
パチ……パチパチパチパチ!
突然ホール内に、拍手が響き渡る。
客席の方を見ると、一緒に舞台の上で演技した仲間達が、拍手をしていた。
感極まってしまい、涙が舞台上にぽたぽたと雨のように落ちる。
「今まで、ありがとうございました!」
今出せる精一杯の声を出しながら、一礼する。
更に拍手の音が大きくなり、ホール内と心にいつまでも響き渡った。

11/29/2025, 11:54:37 PM