夜空に浮かぶ、真ん丸の満月。
こっちに向かって光を放っていて、まるでスポットライトのようだ。
立ち止まって、満月を見上げる。
満月の光を浴びると、パワーが貰えるらしい。
大きく息を吸い、満月のパワーを吸い込む。
ま、本当にパワーを貰えるかは分からないけど、仕事で疲れてる今は、信じてやろう。
時折空を見上げながら、帰路に着いた。
テーブルの上に並べられた、美味しそうなスイーツ達。
「神よ……今日だけは、スイーツを大量に食べる私をお許し下さい……」
シスターである私は、体型を維持するため、大好きなスイーツを食べることを我慢している。
でも、今日は月に一度の、スイーツを沢山食べてもいい日。
……私が勝手に作った日だけど。
やっぱりご褒美は必要だし、スイーツは食べたいからね。
「それでは……いただきまぁす!」
腕捲りし、まずは苺が乗ったショートケーキをいただく。
「んん~!おいひ~!」
あま~いクリームの味が、口の中に広がる。
糖分最高♪
あっという間にショートケーキを完食し、他のスイーツ達の甘味や食感を味わいながら、月に一度のご褒美を満喫した。
引っ越したばかりの新しい部屋。
私以外誰もいないはずなのに。
誰か……いる!気配は天井から!
手裏剣二つ同時に天井へ向けて投げる。
だが、気配は消えていた。
気のせいだったのだろうか……いや、今度は押し入れから気配が!
鞘から刀を抜き、襖を斬った。
襖は真っ二つになり、押し入れの中には……誰もいない。
やっぱり気のせいなのだろうか?
引っ越したばかりで、神経質になっているのかもしれない。
「まだまだ甘いな真美」
「誰!?」
振り返って、刀を構える。
背後に居たのは……お父さんだった。
「お父さん!?どうしてここに?」
「真美の一人暮らしが心配でな。こっそり見に来たんだよ」
「……覗いてたのね、私を」
「色んな部分が成長したな……真美。ぬお!?刀を振り上げるな!冗談だよ!冗談!」
私は忍者の里で産まれ、忍者の里で育った。
でも、忍者ではなく普通の女性になりたくて、忍者の里を抜き出し、都会へ出てきたのだ。
「気配を上手く読み取れないようでは忍者として──」
「お父さん、私、忍者じゃなくて普通の女性としてこれから生きていくから」
「普通の女性は手裏剣や刀は持ってないぞ?」
「……護身用よ」
お父さんは心配で見に来たって言ってるけど、多分、忍者の里へ連れ戻すために来たのだろう。
「私、帰らないからね」
「決意は固いようだな。分かった。今日のところは大人しく帰ろう。またこっそり来るから気配を感じ取ることを忘れずにな」
「もう来なくていいよ」
「ま、帰りたかったらいつでも連絡してくれたらいい。またな、真美」
「あっ、待って父さん」
「どうした?帰りたくなったのか?」
「違う。帰る前にちゃんと弁償して」
「弁償?」
お父さんのせいで穴が空いてしまった天井、襖が真っ二つになった押し入れ。
これらをきっちり、お父さんに弁償してもらった。
電柱の街灯が道を照らしている、薄暗くて静かな住宅街。
仕事で帰りが遅くなり、一人で歩いてるけど……私の足音しかしなくて、少し怖い。
コッ……コッ……。
……いや、よく聞くと、私以外にも足音が聞こえる。
コッ……コッ……。
後ろからだろうか?
まだ、少し離れた距離から聞こえるから……逃げたほうがいい……かな?
歩く速度を上げ、住宅街を進む。
コッコッコッ……。
私の後ろの足音も、速度を上げている。
さっきより、距離が近くなっているような気が……。
立ち止まり、勇気を出して後ろを振り向く。
振り向いた先には、犬……の格好をしたおじさんが立っていた。
「ワンッ!ワンッ!ただの犬ですワンッ!」
「……キ……キャアアア!!!変態犬オヤジ!!!」
私の叫び声を聞いた住宅街の人が、警察に通報してくれたおかげで、変態犬オヤジは捕まった。
風が吹くたび、肌に当たる冷たい空気。
つい最近まで暑かったのに、いきなり涼しくなった。
もう半袖じゃ寒いか……いや、週末はまた気温が上がるって言ってたし……。
秋なのか、まだ夏なのか、はっきりしてほしい。
でも、赤トンボが飛んでいたり、鈴虫が鳴いてたりしているから、秋はもうそこまで来ているはず。
今日は秋のお試しと思って、過ごすことにしよう。
腕を擦りながら、散歩を再開した。