たーくん。

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引っ越したばかりの新しい部屋。
私以外誰もいないはずなのに。
誰か……いる!気配は天井から!
手裏剣二つ同時に天井へ向けて投げる。
だが、気配は消えていた。
気のせいだったのだろうか……いや、今度は押し入れから気配が!
鞘から刀を抜き、襖を斬った。
襖は真っ二つになり、押し入れの中には……誰もいない。
やっぱり気のせいなのだろうか?
引っ越したばかりで、神経質になっているのかもしれない。
「まだまだ甘いな真美」
「誰!?」
振り返って、刀を構える。
背後に居たのは……お父さんだった。
「お父さん!?どうしてここに?」
「真美の一人暮らしが心配でな。こっそり見に来たんだよ」
「……覗いてたのね、私を」
「色んな部分が成長したな……真美。ぬお!?刀を振り上げるな!冗談だよ!冗談!」
私は忍者の里で産まれ、忍者の里で育った。
でも、忍者ではなく普通の女性になりたくて、忍者の里を抜き出し、都会へ出てきたのだ。
「気配を上手く読み取れないようでは忍者として──」
「お父さん、私、忍者じゃなくて普通の女性としてこれから生きていくから」
「普通の女性は手裏剣や刀は持ってないぞ?」
「……護身用よ」
お父さんは心配で見に来たって言ってるけど、多分、忍者の里へ連れ戻すために来たのだろう。
「私、帰らないからね」
「決意は固いようだな。分かった。今日のところは大人しく帰ろう。またこっそり来るから気配を感じ取ることを忘れずにな」
「もう来なくていいよ」
「ま、帰りたかったらいつでも連絡してくれたらいい。またな、真美」
「あっ、待って父さん」
「どうした?帰りたくなったのか?」
「違う。帰る前にちゃんと弁償して」
「弁償?」
お父さんのせいで穴が空いてしまった天井、襖が真っ二つになった押し入れ。
これらをきっちり、お父さんに弁償してもらった。

10/3/2025, 10:56:54 PM