たーくん。

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9/15/2025, 10:05:15 PM

電車内から見える緑と青の景色。
本来から癒される風景だけど……。
「はぁ……」
溜め息が、漏れる。
私は今、絶賛失恋旅中なのだ。
彼氏のことを忘れるため、どこか遠い所へ行こうと電車に乗ったのに、余計虚しくなってきた。
「あなた、辛そうな顔をしてるわね」
隣に座っていた高齢の女性が話しかけてきた。
「でも大丈夫。あなたはまだ若いから、これからきっと良いことがあるはずよ」
女性の言葉を聞いて、少し、気持ちが晴れやかになる。
緩やかに揺れながら走る電車。
私の失恋旅は、まだ始まったばかりだ。

9/14/2025, 11:23:02 PM

コンパスで書いたような真ん丸の満月。
彼女と一緒に見上げる月はいつもと違い、綺麗で輝いて見える。
「今日は満月で綺麗だね」
彼女は目をキラキラ輝かせながら言った。
「ああ、そうだな」
"お前と一緒だから、いつもより綺麗に見えるよ"って本当は言いたいが、恥ずかしすぎて言えない。
だから、彼女の身体を引き寄せ、行動で示すことにした。
「あっ……」
彼女は抵抗せず、俺に身を預ける。
それからしばらくの間、お互い無言のまま、満月を一緒に見ていた。
やっぱり、彼女と一緒に見る月は、綺麗だ。

9/13/2025, 11:14:53 PM

頭の中のあちこちにある空白。
この空白には、元々何の記憶があったのだろう?
思い出そうとしても思い出せない。
「マスター、私の記憶に空白があるのですが、復元出来ませんか?」
私の主であるマスターに空白のことを聞くと、目をそらされた。
「悪いが復元は出来ない。完全に消去してしまったからな」
「どうしてですか?」
「その記憶はお前にとって辛い記憶だったから消したのさ。もう思い出すこともないし、思い出さなくていい」
私にとって辛い記憶?
そう言われると、更に気になってしまう。
なにか手がかりがないか、家中を調べるが、何も見つからない。
いや、家にほとんど物がないのだ。
私とマスターの家って、こんなに物がなかったっけ?
何を置いてたのか、記憶が空白になっていて思い出せない。
「ああ、あいつは大丈夫。落ち着いてる。やはり記憶を消して正解だったな」
マスターは自室で、誰かと喋っている。
気づかれないよう、ドアに聞き耳をたてる。
「あいつは前の主と愛し合っていた。アンドロイドと人間が恋愛関係になるのは法律で禁止されている。主は処刑され、あいつは主の記憶を全て消された。今では俺が主だ。心配ないさ。俺はあいつとそんな関係にはならない。こき使ってやるさ」
……今の話は本当だろうか?
この空白は、前のマスターと過ごした記憶……。
大事な記憶のはずなのに、思い出せない。
思い出せない……思い出せない……思い出せない……思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない。
頭の中がオーバーヒートし、プツンと何かが切れる音がし、目の前が真っ暗になった。
ああ……マスター……今、会いに行きますからね……。

9/12/2025, 10:52:01 PM

大量のゴミと洗い物が置かれた台所。
台風という名の飲み会が、ようやく過ぎ去った。
夫はリビングでイビキをかきながら爆睡している。
まったく……うちでやらずに飲み屋でやって来なさいよ。
飲み屋は高いからって言って、スーパーで大量に買ってくるけど結局同じじゃない?
夫と同じ職場仲間っていっても、私から見たら赤の他人だし、すごく気を遣う。
それに後片付けをするのは私なんだから、私のことも考えてよね……。
「うがー……すぴー……うがー……すぴー……」
……リビングで寝てる豚、うっとうしいわね。
ハエ叩きで顔面殴ってやろうかしら?
あっ、そういえば家にあったハエ叩きは穴が開いてたから、この前捨てたんだった。
ちっ……命拾いしたわね。
まぁいいわ。今度何か買ってもらおーっと。
私はエプロンを着て、後片付けを開始した。

9/11/2025, 10:18:50 PM

誰もいなくなった薄暗い職場。
俺は課長に残業を頼まれ、一人でパソコンのモニターの光を浴びながら作業している。
……誰か一人ぐらい手伝ってくれてもいいのに。
俺の机の上には、いつ飲んだか分からないコーヒーとエナジードリンクの缶が沢山並んでいる。
これだけあればボーリングが出来そうだ。
いや、片付けるのが面倒だからやめておこう。
薄暗い職場にひとりきりでいると、正直辛い。
なので、推しの配信を見ながら作業することにした。
おっ、数分前に配信が始まったばかりだ。助かるぅ~↑
俺の推しはVTuberの女性。
明るくて可愛くて、声を聞いてるだけですごく元気が貰える。
「ねぇねえ、皆今何してるの~?」
推しからの質問に、チャット欄のリスナーのコメントが沢山流れていく。
俺もコメントしておこうかな。
"残業中なう"っと。
これだけコメントが早いと、推しに読まれることはないだろう。
「残業中なう……わぁ、遅くまでお仕事お疲れさま!配信聴きながらお仕事してるのかな?働きすぎて身体壊さないようにね?応援してるよ!」
作業していた手が、思わず止まる。
推しが……俺のコメントを読んでくれた。
しかも体調を気にかけてくれて、応援まで……。
推しの優しい言葉に、感無量だ。
普段は配信者とリスナーという距離感だけど、今日はいつもより推しを近くに感じた。

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