頭の中のあちこちにある空白。
この空白には、元々何の記憶があったのだろう?
思い出そうとしても思い出せない。
「マスター、私の記憶に空白があるのですが、復元出来ませんか?」
私の主であるマスターに空白のことを聞くと、目をそらされた。
「悪いが復元は出来ない。完全に消去してしまったからな」
「どうしてですか?」
「その記憶はお前にとって辛い記憶だったから消したのさ。もう思い出すこともないし、思い出さなくていい」
私にとって辛い記憶?
そう言われると、更に気になってしまう。
なにか手がかりがないか、家中を調べるが、何も見つからない。
いや、家にほとんど物がないのだ。
私とマスターの家って、こんなに物がなかったっけ?
何を置いてたのか、記憶が空白になっていて思い出せない。
「ああ、あいつは大丈夫。落ち着いてる。やはり記憶を消して正解だったな」
マスターは自室で、誰かと喋っている。
気づかれないよう、ドアに聞き耳をたてる。
「あいつは前の主と愛し合っていた。アンドロイドと人間が恋愛関係になるのは法律で禁止されている。主は処刑され、あいつは主の記憶を全て消された。今では俺が主だ。心配ないさ。俺はあいつとそんな関係にはならない。こき使ってやるさ」
……今の話は本当だろうか?
この空白は、前のマスターと過ごした記憶……。
大事な記憶のはずなのに、思い出せない。
思い出せない……思い出せない……思い出せない……思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない思い出せない。
頭の中がオーバーヒートし、プツンと何かが切れる音がし、目の前が真っ暗になった。
ああ……マスター……今、会いに行きますからね……。
9/13/2025, 11:14:53 PM