たーくん。

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9/3/2025, 10:18:21 PM

ベンチに座り、スマホを耳に当てている愛しい君。
時折、風で長い黒髪がなびいて美しい。
でも、一体誰と喋っているのだろうか?
まさか……彼氏か?
いや、そんなはずはない。
一ヶ月ほど彼女を見ているが、男を連れて歩いている姿は見なかった。
多分、女友達とかだろう。
彼女を観察していると、肩をトントンと叩かれる。
「ちょっと、いいですか?」
振り返ると、警察官が立っていた。
「遠くから双眼鏡でずっと見られていると通報がありまして。あなたですね?」
「えっ、あっ、えっと……こ、これは恋であり、愛です」
「交番で詳しい話を聞きましょうか」
「そ、そんな……遠くから彼女を愛してただけなのに」
双眼鏡で再び彼女を見ると、彼女はこっちに向かって中指を立てていた。

9/2/2025, 10:15:55 PM

父さんの遺品を整理していたら、数冊のアルバムが出てきた。
いつ頃のアルバムだろう?
アルバムの一冊を開くと、幼稚園時代の俺の写真が何枚も貼られていた。
ページをめくる度に、当時の思い出が甦ってくる。
父さんはアルバムを捨てずに残していたんだ……。
昔はこんなに写真を撮っていたのに、今では家族で写真を撮ることはなくなった。
今の時代はスマホで簡単に撮れるけど、俺のスマホ内には家族の写真は一枚もない。
そういえば、遺影で使う父さんの写真探しには苦労したな……。
結局、運転免許証の写真を使うことになった。
普段から写真を撮っておけば、あんなに苦労しなくて済んだだろう。
アルバムを一通り見て、本棚へ戻す。
これはここに置いておくのが正解だと思う。
さて……。
リビングへ行くと、母さんと弟が居たので声をかける。
「なぁ、写真撮らないか?」
突然の写真撮影に、唖然とする二人。
俺はそんな二人のことはお構い無く、スマホを撮影モードにし、カメラを内側に切り替え、俺と母さんと弟の三人が画面に入るように位置を合わせる。
「はい、チーズ」
親指で、撮影ボタンを押す。
三人共ぎこちない顔だったけど、今の俺達にぴったりな写真だった。

9/1/2025, 10:20:39 PM

山に囲まれ、田んぼに挟まれた田舎道。
あちこちで、蝉達が合唱していた。
目に見えるもの全てが緑で、すごく癒される。
都会とは違い、涼しくて快適だ。
母さんの実家である田舎へ久しぶりに来たけど、こんなにも落ち着くとは。
小さい頃はつまんない所だと思っていたが、大人になると見え方が変わる。
なぜ、ここに来たかというと……。
俺はこの夏、夏らしいことを一つもしていない。
なので、数日間の休みを利用し、夏を満喫しようと考えた。
拠点は母さんの実家。
じいちゃんとばあちゃんには連絡済みだ。
この田舎で、童心に戻って色々やってみよう。
スマホの電源をオフにし、夏を求めて長い田舎道を歩き始めた。

8/31/2025, 9:58:31 PM

8月31日、午後5時。
スマホの画面に、そう映っていた。
まさか日曜日をほぼ一日寝て過ごしてしまうとはな……。
せっかくの休みが台無しだ。
いや、今からでもまだ挽回は出来る。
俺の日曜日は、今から始まるのだっ!
全力で挽回した結果、明日月曜日ということを忘れて夜更かししてしまい、寝不足で仕事に支障が出てしまった。
だが、後悔はしていない。
俺は全力で、日曜日を満喫出来たのだから。
でも今度の日曜日は、きちんと規則正しく生活しよっと……。

8/31/2025, 1:03:15 AM

テーブルの上に並べられた二つの茶碗。
以前はひとりでいいと思っていたのに、ふたりだと、こんなにも気持ちが変わるのか。
「どうしたの?じっと茶碗を見つめて」
妻は料理が乗った皿をテーブルに並べながら、俺に言った。
「いや、ひとりよりふたりのほうが食事は楽しいなと思って」
「ふふ、料理もそんな風に褒めてくれたら嬉しいのに」
妻は悪戯っぽく笑う。
「も、もちろん料理も美味しいし、毎日作ってくれていつも感謝してる」
「なんか言わせた感じになっちゃったけど、ありがとっ」
毎日思っていることだけど、照れくさくて口に出して言えない。
思うだけじゃなくて、きちんと声に出して言わないとな……。
「よしっ、それじゃ食べよっか」
料理を並べ終えた妻は向かいの席に座り、手を合わせる。
俺も、手を合わせた。
「いただきますっ」
「いただきます」
ひとりの時は言わなかった食事の挨拶。
誰かと一緒だと、今までしていなかったことをするようになり、それが当たり前になる。
これからも、ひとりで出来なかったことを、ふたりで共有していきたい。
妻の作ったご飯は、今日も美味しかった。

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