大地は荒れ果て、海は毒沼に変わってしまった世界。
生き物は我以外、存在しない。
どうしてこの世界は、こんなにも何も無いんだ。
一代目魔王は世界を滅ぼしたあと、することがなくなり、最終的に自ら命を絶った……と、我の記憶の中に残っている。
我は二代目魔王として、この世界に生まれたが、一代目魔王と状況は変わってない。
さて、これからどうするべきか?
滅んだ世界で一人は退屈だ。
一代目魔王と同じ道は辿りたくない。
しばらく世界を眺めながら考えていると、一つの答えに辿り着く。
……世界を再生させる。フハハ。
魔王である我が、神のような考えをして、思わず笑ってしまう。
まあいい。世界を再生させ、生き物を復活させたあと、再び我の手で滅ぼしてくれるわ。
海に手を向け、まずは毒々しい海から浄化を始めた。
銀色のアスファルトが続く長い一本道。
昔は土の道だったのに、アスファルトの道は固くて歩くたびに足が痛む。
道の周りにあった草木も家へと代わり、時代の流れを感じる。
君と歩いた道は、こんなにも変わってしまったよ。
初めて一緒に歩いたのは……学生の頃か。
君が学校から出てくるのを待ち伏せして、一緒に帰ってたな。
そんな私を、君は嫌な顔をせず、いつもニコニコしていた。
私は、あの笑顔に惚れたんだと思う。
一緒に帰ることが当たり前になり、いつの間にか手を繋ぐようになり、私達は結ばれた。
それからも、この道をよく一緒に歩いたもんだ。
私達の思い出の道だから、と言って。
だが、君は先に逝ってしまった。
君がいなくなってから、心にぽっかりと穴が開き、毎日物足りない生活を過ごしている。
君の存在が、すごく大きかったんだと思う。
私も、早く君の所へ……。
「あっ!おじいちゃん、またかなしいかおしてる!」
「わたしたちがいっしょだから、そんなかおしないで!」
孫達が、私の右手と左手をぎゅっと握る。
小さい手だが、力強さと優しさを感じた。
「おじいちゃんわらった!」
「えがおがいちばんだよ!」
「そうだな。ありがとう、二人共」
どうやら、私はまだ君の所へ行けそうにないみたいだ。
私は孫達と一緒に、長い一本道を笑顔で歩いた。
大勢の人で賑わう日曜日の大型ショッピングモール。
今日は、幼馴染みの岩橋と一緒に買い物に来ていた。
俺とじゃなくて、女友達と来ればいいのに。
本人曰く、友達が少ないし、俺だと気を遣わなくていいかららしい。
てか、高校二年の年頃の男女がこうして一緒に買い物をするのは、デート……だよな?
……なにを考えているんだ俺は。
そんなことを考えている間に、前を歩いていた岩橋がいつの間にかいなくなっていた。
どこへ行ったんだ?あいつ。
周囲を見渡すと、岩橋はショーウィンドウの前でなにかを見ていた。
近寄って、背後から声をかける。
「なにをそんなに熱心に見てるんだ?」
「うん」
返答が適当になるほど、なにかに夢中になっている岩橋。
ショーウィンドウの中には、真っ白のウェディングドレスが飾られていた。
肩が丸出しで、色っぽいドレスだ。
岩橋は花嫁に憧れる夢見る少女のように、ウェディングドレスを見つめている。
「お前にはまだ早いと思うぞ」
「うん……まずは相手を探さないとだね」
ショーウィンドウに映る岩橋と、目が合う。
いつもの岩橋とは違い、色っぽい目をしていた。
トクンと、鼓動が跳ねる。
幼馴染みにときめいてどうするだ、俺。
「まだ買う物あるんだろ?さっさと行くぞー」
「あっ!待ってよー!」
俺は逃げるようにその場から立ち去る。
まさか岩橋が、俺のことを……ね。
「ちょっとー!置いてかないでよー!」
岩橋の声を聞くたびに、俺の歩く速度は上がっていった。
目の前に広がる初めての世界。
事前にここへ行こうとか、こうしてから行こうとか、そんなことは決めなくていい。
自由気ままに、好きな所へいけばいいんだ。
さあ行こう!
私は軽やかな足取りで、新しい地へ一歩踏み込んだ。
突然の大雨で、沢山の水たまりが出来た学校の帰り道。
今は雨が降っていたのが嘘かのようにカラッと晴れている。
今日はずっと晴れって言ってたのに、なんでいきなり降るかなぁ。
しかも、傘持ってない時に限って。
おかげで靴の中までびしょびしょだ。
まだ夏の制服を着てなくてよかった。
濡れたら色々透けちゃうからね……。
近くにあった大きな水たまりを覗くと、私の後ろで、私を嘲笑うかのような青空が映っていた。
なんだかムカついたから、ジャンプして両足で思いっきり水たまりを踏む。
どうせ靴の中はびしょびしょだし、今の私は無敵だ。
水たまりに映る青空は、びちゃっ!と音を立てながら歪むが、すぐ元通りに戻る。
ぽつ、ぽつ、と何かが水たまりに落ちてきた。
空を見上げると、雨粒が次々と落ちてきて、やがてぽつぽつからザーザーの本降りへと変わる。
まるで、私が水たまり越しに空を踏んだ仕返しをするかのように。
「なんで晴れてるのに雨が降るのよ!ばかぁー!」
私は空に文句を言いながら、走って帰った。