目の前に広がる色鮮やかな無数のペンライト。
今日は、私のライブに沢山の人が集まってくれた。
近くにいるファン達からの声援は、よく聞こえる。
遠くの方を見てみると、ペンライトを大きくブンブン振っているファン達の姿が見えた。
耳を集中させると、これでもか!っていうぐらい大きな声で声援してくれている。
その姿を見て、胸が熱くなっていく。
私は息を大きく吸い込み……。
「後ろにいる皆ぁーー!ちゃんと声届いてるよぉーー!いつも!ありがとうーー!!」
マイクを使わず、大きな声で感謝の言葉を叫んだ。
カップルで溢れている日曜日の公園。
この公園には桜の他に、色んな花が植えられている。
今の季節、春は特にすごくて、公園中の花が満開で見頃なのだ。
私の周りにいるカップル達が手を繋ぎながら、キャッキャウフフと花見を楽しんでいた。
あんなに浮かれて……一人で来ている私の身にもなってほしい。
と言いつつ、私は出会いを求めてここへ来たけど……場違いだったかも。
春をイメージして、ピンクのワンピースを着てきたのに、これではただの浮かれた女だ。
あーあ、どこかに良い男が落ちてないかなぁ。
「はぁ……はぁ……君ぃ、ちょっといいかな?」
「きゃっ!変態さん!?」
欲求不満の興奮している息遣いの荒い変態かと思って、思わず声が出てしまった。
「ち、違う。すまない。走ってきたから息が荒くなってね。はぁ……はぁ……」
両肩を大きく上下させている背の高い男性。
よく見ると、イケメンだった。
「ちょっと待ってて。スゥーー……ハァーー……」
男性は深呼吸し、息を整えている。
「よし。改めて、君。イベント会場ってどこか分かるかな?もうすぐイベントが始まるから走ってたんだけど、迷子になってしまって……ははは」
男性は苦笑いしながら言った。
腕時計を見ると、もうすぐ十五時。
確か、この時期限定の催し物があるんだっけ。
「場所は分かりますよ。よければ案内しましょうか?」
「いいのかい?助かるよ!」
男性と一緒に、イベント会場へ行くことになった。あれ?これってもしかして……チャンス?
お互い一人同士。
しかも相手は身長が高いイケメン。
よーし!春をゲットするぞ!私!
私は心の中で、気合いを入れた。
「ここがイベント会場です。あっ、もうすぐ始まりますね」
「よかったー間に合って。ありがとう。案内してくれて」
「いえいえ、あの……よければ私と……」
「あー!やっと見つけた!どこ行ってたのよ!」
私が男性を誘おうとした瞬間、女性がこっちに走ってきた。
私と男性の間に、女性が割り込む。
誰よ、この女。
「悪い悪い。道に迷って、この子に案内してもらったんだよ。スマホで連絡しようとしたけど充電が無くなっててさ……ははは」
「んもう、出掛ける前は充電してって、いつも言ってるじゃない。ごめんね。彼氏が迷惑かけて」
女性は私の方を向き、頭を下げた。
「いえいえ……ん?彼氏?」
状況が分からず混乱している私に、男性が説明してくれた。
「彼女と公園のイベント会場で待ち合わせをしていたんだ。迷子になった時はどうしようかと思ったけど、君のおかげで助かったよ。ありがとう」
「い、いえ……」
つまり、私はカップルの待ち合わせの手助けをしたってこと?
気合いで膨らんでいた心の風船が、一気に萎んでいく。
「よし、見に行こうか」
「うんっ。間に合ってよかったね」
男性と女性は恋人繋ぎをし、私に見せつけながら去っていった。
「春のバカヤローーー!!」
私はカップルが沢山いるイベント会場で、人目を気にせず叫んだ。
大画面ディスプレイに描かれた俺達の未来図。
俺達が自分で描いたのではなく、AIが描いたものだ。
十五歳で市役所に行き、未来図を生成することが憲法で定められている。
政府がAIになってから、自分の未来図も勝手に決められるようになってしまった。
将来安定のために、未来図通りにしなければならない。
従わないと……処罰される。
「お、俺は自由に生きるんだ!AIに未来を決められてたまるかよ!」
近くに居た男子がディスプレイを蹴り、出口へ向かって走っていった。
「そこの男子!止まりなさい!」
アンドロイド役員が男子に銃を向ける。
……そうだよな。
未来図っていうのは自分達が描くもので、誰かが描くものじゃない。
俺はアンドロイド役員を後ろから蹴り倒す。
「皆も行こう!未来は俺達が決めるんだ!」
「おおー!」
俺達は男子のあとに続き、出口へ向かって走った。
だが、もう一歩というところで、シャッターが降り、出口が封鎖されてしまう。
「お前達、そこまでだ」
アンドロイド役員達に取り囲まれ、逃げ場がなくなる。
俺達の未来と自由は、完全に閉ざされてしまった。
空を舞う、ひとひらの花びら。
身軽な花びらは、あっちへ行ったり、こっちへ来たり、風にもて遊ばれている。
強風が吹き、花びらはどこかへ飛んでいき、見失ってしまった。
私が死んで天国へ行くときも、あんな感じなのだろうか?
いずれ私は、あの花びらのことを忘れてしまうだろう。
同じように…皆の記憶から、私の存在が消えていくのだろうか?
そう思うと、少し寂しい。
「捕まえた!」
ジャンプして、何かをキャッチした私の彼氏。
「この花びらをずーーっと目で追いかけてからさ。嫉妬して捕まえちゃったよ」
彼氏は照れた顔で手のひらを広げ、捕まえた花びらを私に見せる。
彼氏の可愛らしい姿を見て、さっきまでの嫌な考え事が頭の中から出ていき、風と共に飛んでいった。
万年使える卓上の日めくりカレンダー。
めくるたびに、新しい一日が始まる。
いつも通っている道から見る風景は、同じように見えて、毎日少し違う。
よーく見ると、新しい発見が必ず見つかるはずだ。
空の色や天気の機嫌によって、また別の風景に変化する。
雨が嫌いな人も、風景を楽しんで色んな見方をすると、印象が変わるかもしれないよ?
通り慣れた道を、今日も歩く。
私は、今日しか見れない当たり前な風景を、目に焼きつけた。