月風穂

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3/5/2026, 1:13:34 PM

【たまには】

たまには言いたいことがある。
なぜ私にこんな平凡な名前をつけたのか。
どれくらい平凡かと言うと、テレビでよく聞く名前だ。週に一度は聞く。

そもそもなぜこの名前なのか。
由来を教えてくれ。
確かに私の毎日は平凡かもしれない。
ただ、私の頭は他のやつらよりも切れる。
マナーもしっかりと守るし、清潔感もある。
ときたまいい匂いがするのは日々の努力の賜物だ。
確かに変わり気な性格だし、好き嫌いははげしい。
でもそれも個性だ。
個性バチバチだ。
すごいだろ。

なのになぜ。
私の名前はたまなどとふざけた名なのだ。
ふざけるな!
私のどこをどうみたら、たまなどとすっとんきょうな名になるのだ!

そんな風に思っているのだろうか、うちのたまは。
私もあんたの名前の由来は知らんけどな。

3/4/2026, 1:26:03 PM

【大好きな君に】

私は飽きっぽいから、君をずっと大好きでいる自信はない。
人の心は移り変わるものだから、私の心も変わっているはずだ。
今どれほど君を大好きと語ろうと、未来の私はどう君を語るだろうか。


大好きから愛してるはどう移り変わるのだろう。
私は大好きをこえて、君を愛す。
それだけは確かだ。

3/3/2026, 1:50:07 PM

【ひなまつり】

「ひな人形ってみんな美男美女すぎん?どんだけ昔の人は顔のレベル高いんよ」

「知らんがな。うちのひな人形にはおじいさんとかおったけど…確かに美熟男やったな」

「美熟男ってなんやねん。まあ美男美女やないと売れへんやろうしな。私らはひな人形にはなれへんな」

「私らて何?混ぜんな。そんな悲しいこと言わんでもいいやん」

こうしてひなまつりを終えたひな人形を片付ける。
私らももっと美人になれるよう頑張ります。
また来年。

3/2/2026, 1:05:16 PM

【たった一つの希望】

「以上で手続きは終了です。最後に一つ希望を聞きましょう。しかしあなたは徳を積んだのですね。次も人間に生まれ変われるなんて」


私は死にそうである。
毎日ただ生きているだけで、体の不調や仕事のストレスが次々と発生する。
痩せ細った体は今にも折れそうなほどの脆弱さを保っており、30年近く変わらぬのだから私は変化がどうも苦手らしい。

もっと筋骨隆々で精神的にタフでなにがあってもへこたれない。
ついには周りに対しても気がきき、いつもにこやかで華やかである。
贅沢を言えばこんな人間でありたかった。
だができないのだ。
人は生まれ変わるときに一つしか希望を叶えてもらえぬ運命なのである。

暴発しそうな仕事のストレスを抱えながら帰路に着く。
「おかえり~」
笑顔で迎え入れてくれる娘の顔は、世界が平和であるかのようになだらかだ。
あたたかな空気は、凍てついた私の体をほぐすように包み込む。

私は大金持ちにはなれないだろうし、起業して世界トップレベルの会社の経営はできない。
多くの友人には恵まれないし、切れ者と呼ばれるような頭脳はない。
私は不治の病のような体の痛みとも戦うし、仕事のストレスは働いている限り消えはしない。
考えうる限り、私の理想の姿とは程遠い現実がそこにはある。
そんな私が生まれ変わるときに願ったのは何だったのだろう。
きっとそれは「平凡な幸せ」だったのかもしれない。
そんな言葉を選んだ私も捨てたものではないな。

11/3/2025, 12:04:11 PM

【行かないでと、願ったのに】

祖父の葬儀は滞りなく過ぎ去った。
寒空の下吹き付ける風は、私の悲しみまでも凍てつかせた。

祖父にとって私とは何だったのだろう。
イベント事で年に数回会う孫。
私の心の内までも祖父に伝えることはできていたのだろうか。
上部だけの会話だった気がする。
どうでもいいような話ばかりしていた。
話下手だった私の話題はすぐに尽きる。
いくつになっても私は伝えるのが下手くそだ。

祖父は亡くなる一年程前から認知症となり、私のことは記憶から失われていった。
その後がんが見つかり、寝たきりになった姿には、もうあの時の面影は存在し得なかった。

行かないでと願った。
その反面、行かなくても祖父の中に私は存在していないと感じると、その思いは揺らいでいた。
祖父にしてみれば無理に生きるのは苦しみになっていくのではないか。
大切な存在が記憶から消えていくなかで、思うようにいかない心と体は、その行く先を見つけられず、闇のなかを漂っていたのではないか。


今にして思えば、もっとしておけばよかったことは山ほどある。
でも今になってもできることは少なかったのかもしれない。
しんしんと降る雪は祖父の旅立ちの気配を残している。
「名残雪だね。」と母は泣いていた。

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