薫衣草

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11/14/2022, 2:32:57 PM

家から出た途端、昨日より冷たい風が緩い襟の隙間から入り込んでくる。
もう少し厚着して出てくれば良かったかな、そんな考えは陽の光を前に消え失せた。

朝の道は静かで気持ちがいい。

そんなことを考えながら、まだ眠気で締まりのない頬を風に晒すためにマスクを下げてみる。
肺いっぱいに冷たい空気を吸い込むと思わずむせてしまった。けれど、外の匂いは好きだ。

風が運ぶのは、金木犀の甘やかな香りと枯葉の香ばしい香り。それと、シンと冷たい冬の香り。

一時の秋を終えて、もうすぐ冬が来る。

〜秋風〜

7/10/2022, 5:21:36 PM

中学3年
定期試験の解答用紙が返却され、夏休みが迫る頃
受験を考え始める時期だ。

「俺さ、お前のことが好きだ」

2人きりの蝉の声響く放課後の図書室で、私の幼なじみで初恋の男の子が言った。

「……まじか」
「うん、まじ。返事は後でいいから」

そう言って書庫の整理へ向かおうとする制服の袖を引き寄せた。

「私も、私も好き!」

お互い顔を真っ赤にして、夏のせいだと言いながら2人で抱きしめあった。
やっぱり蝉は鳴いていた。


夏休み
花火大会で、木に隠れてキスをした。ファーストキスは甘酸っぱいりんご飴だった。
互いの家で宿題をしたり、受験勉強をしたり、たまにゲームをしたり普段と変わらない過ごし方ではあったが、それでも特別だった。
来年も、一緒にいたい。
だから、同じ高校に行く約束をした。
私は少し勉強を頑張らないと入れないけど、君が教えてくれるって言ったから、苦手科目も頑張れる。



まるで夢のように素敵な日々
否、これは私の記憶
遠い夏の日の甘やかな思い出

君はこの懐かしい日々の数日後、交通事故に遭う。
新学期が始まる2日前だった。
そのまま君は帰らぬ人となり、私は約束の高校へ進学した。
それなりに充実した日々を過ごして大学生になり、成人した。

君をあの夏の日においてけぼりにしたまま

私は大人になった。

あぁ、蝉の声が聞こえる。

〜朝、目が覚めると泣いていた〜

7/7/2022, 1:49:24 PM

織姫と彦星は1年に1度、1晩だけよく晴れた星空の中をデートする
君はそれを祝福しているのかな
それとも嫉妬してる?
だって君は私と夜に出歩くの好きだったでしょ
8月の七夕祭りの日にそう言ってたのを覚えてるよ

そっか、あの年はいつものお願いをしてなかった
君とまた来年って
だから、君が星になったんだね


織姫と彦星を隔てるのは天の川で
私とあなたを隔てるのは三途の川

織姫と彦星を助けるカササギはなく
私とあなたを助けるのはいつかの死

〜七夕〜

2/12/2022, 5:32:09 PM

君のことを忘れたくない
思い出せもしない思い出を抱えて生きるなんて、
そんなのあんまりだよ
君はもういないのに
こんな言葉ももう届かないのに
あのね、君のことが、

……なんて、どうせもう君には伝わらないのに


〜伝えたい〜

2/9/2022, 5:49:57 PM

君のための色
君のための言葉
君のための贈り物

君は明るくて人気者だから、黄色や橙色の花束にしたいな。君がいるだけで周りがパッと明るくなるんだ!だけど、黄色の花にはあまりいい花言葉のイメージがないんだよなぁ。

それなら、花言葉から選んでみよう!
希望、尊敬、誠実、幸福っと、うん、こんなもんかな。
ガーベラ、ゼラニウム、アイビー、ブルースターに、カスミソウ。
それから、君を忘れないようにシオン。

あれ?白に赤に緑に青、それから紫、これじゃ色がめちゃくちゃじゃない!!
どうしようかな。

うん、決めた!
また会う日を楽しみに、ネリネを贈ろう。
可愛すぎるから恥ずかしいって?
確かに、成人を目前に控えた君みたいな男の子からしたらそうかもね。
でも、彼岸花よりは遠回しでしょ?まぁ、それでも花束にするなら白かピンクなんだけどさ。
え、変わらないって?あは、バレたか。

……彼岸は来月かぁ。

うーん、時期が違う気もするけどカーネーションも加えてみようかな。白とピンク、君はどっちが好きかな?可愛すぎないように白にしておこうか。

……もう、2度目だっけか。

ピンクのネリネと白のカーネーションかぁ。
よし、甘すぎないようにグリーンも足してっと、
やっぱりカスミソウも入れておこう。君への感謝と愛情を込めて。

……だって私は、君と会う度に夢見心地だったから


〜花束〜

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