悪縁が切れてるかはともかく、唇が切れたことは確実だ
つい唇の皮を剥いたら思いのほか出血していたらしい、親指の爪に血が着いていた
舌で舐めるとほのかに塩味を感じる
うっかりヤギを使った処刑法を思い出しかけて記憶の引き出しに慌ててしまう
新年早々嫌な想像をしてしまうところだった
明日はポップコーンを作る予定だったのにこれじゃあ塩が染みてしまう
まだ口角炎も治りきってないのに
鼻も詰まってきた気がする
思い切って鼻をかむと血が出た
なぜなのか
片鼻は鼻づまり、片鼻はティッシュ、口呼吸するとついさっき負った傷が吸う空気で痛む
良くなさすぎる
こんなの良くなさすぎる!!
口呼吸をしているせいだろうか
咳が出てきた
乾燥だ
全て乾燥している空気が悪いんだ
唇が皮むけるのも切れるのも、鼻から血が出るのも、咳が止まらないのも全部、全部乾燥しているこの空気のせいだ!!
こんな状態で寝られるわけがないだろう!!
良い初夢が見られるわけがないだろう!!
年越し蕎麦を食べ忘れたことに気づいた
あと40分程で日付が変わってしまうが、今年は自分以外の家族がみんなで帰省してるのでどうせ1人だ
茹でるのも面倒なので諦めることにしよう
切れやすい蕎麦を年越し前に食べることで悪縁を翌年に持ち込まないようにする、なんて話を毎年祖母がそばを茹でながらしてくれていた
まぁ、今年は祖母の家に行かなかったから蕎麦を食べられなかったのだけれど
ブロックハムを切りながら今年の悪縁について考えてみる
……見なかったことにしてる面倒事がいくつか思い当たる
うん、まぁ、きっと来年からもまた見ないふりをし続けるのだろう
切れ端のハムをつまみ食いするとお酒が進む予感がする
グラスに残るジンバックを飲むがハムのブラックペッパーとジンジャーエールの甘さが合わない
壊滅的に合わない
新しくジンソーダを大人しく作ることにする
ライムがあればジンリッキーだが、あいにくそんな素敵なものはない
レモン汁でも垂らしてみるか?いや、やめておこう
足元で頭を擦り付けてくる猫を撫でながら、ハムとお酒を楽しんでいるといつの間にか日付が変わっていたらしい、友人達から連絡がきていた
『あけましておめでとうー!✨
今年もよろしくお願いします😁』
『あけましておめでとう😊
今年もよろしくね〜』
『あけましておめでとうございます!
こちらこそ、今年もよろしくお願い致します🙇♀️』
ふーむ、さて、どう返したものか……
こういうとき、内容は同じでも文面が被らない方がいいのだろうと思うが、なんせ自分を含めた5人のグループ、レパートリーもなくなるものだ
こんな風に送る内容を考えすぎる時点で気の置けない友人と呼べるのか、と疑ってしまう
そもそも今年から、いや、来年度からは社会人となる身の自分たちが今年1年よろしくしているとさえ思えない
はぁ、2025年もこうやって人間関係や連絡の文面ごときで悩み続けるのだろう
まぁ、悪縁が切れていようと切れていまいと、悪い1年にはきっとならないのだろう
そう祈っておこう
〜良いお年を〜
祖母のお守りと、1人の少女に助けられた話
梅雨の時期には珍しい、よく晴れた日だった
ジリジリと熱い太陽の下、黒いアスファルトが熱を反射して焼かれる心地がした
ふいに、誰かに後ろから話しかけられた
青いワンピースの可愛らしい少女だ
「これ、落としましたよ。」
白いの手の中に収まっていたのはお守りだった
遠くに住む祖母が自分のために縫ってくれたものだ
「ありがとうございます。助かりました。」
お守りを受け取ると少女はほっとしたように笑った
まるで百合の花のように華やかだった
「いえ、すごく大切なものなんだろうなって思ったので急いで渡さなきゃって」
「じゃあ、私はこれで!」
そう言って少女は足早に前を行く
「待って、お礼を…!」
お礼をさせてください。
その言葉はつんざくような急ブレーキの音にかき消された
黒いアスファルトに横たわった青いワンピースと白い肌を、赤い血が染めていく
その様子を、祖母からもらったお守りを握りしめながら見つめることしかできなかった
それが、名前も知らない君の最期だった。
〜君と最後に会った日〜
自分の気持ちに正直に生きる
そうあれたらいいけど、なかなか難しい
他者と共存しながら生きている以上、皆が正直になったらきっと社会は崩壊する
「私、あなたのこと嫌いよ」
「あなたと一緒のグループにはなりたくない」
「ムカつく、謝ってよ。謝れってば!!」
「依存してくるのとか気持ち悪いからやめて」
「働きたくない!!」
自分のことを正直に話す
そうできたらいいけど、なかなか恥ずかしい
自分のことを話すのは苦手だし、どうしても話したくない秘密だってある
「幼い頃は体が弱くて、入院ばっかりだった」
「人にいじめられたことがある」
「人をいじめたことがある」
「私、両親が離婚してるの」
「姉がストーカー被害にあって引越しをしたんだ」
別に珍しい話じゃないんだろうけど、言いたくない
正直って、なんて難しいんだろう
〜正直〜