「月が綺麗ですね」
実に有名な構文だ。
まぁ、残念ながら君には伝わらないのだけど。
「星が綺麗ですね」
月が綺麗なのが伝わらない君に分かるわけがない。ついでに君は本当に知らないんだ、この言葉に込めた意味も、想いも。
「雨、止みませんね」
君は雨が降っていようといまいと外へ飛び出していくから、情緒もへったくれもないんだよ。
「雨音が響いていますね」
第一にそんなことを君に対して言うつもりは毛ほどもない。だけど、いつか僕がこの感情に整理をつけた日には言ってしまうのかもしれないね。
「夕日が綺麗ですね」
そう言うと、きっと君は夕日に見とれてしまうから言いたくない。
「明日は晴れますか?」
能天気な君のことだ、天気予報を見なくても絶対に晴れる!!って宣言するだろう。……天気予報を見なくてもわかる、晴れるわけがない。
「今日は少し肌寒いですね」
じゃあ体温を分けたげよう、なんて言いながら君は手を差し出してくる。意味が通じてないはずなのにほしいものをくれるのは嬉しい。けど、それはそれで癪に障る。
「暖かいですね」
まるで君みたいだ。なんてキザったらしい言葉は飲み込んだ。
「寒いですね」
本当に寒いと君は何も言わなくなるし、動きもうるさくない。縮こまっている様子が可愛いから、何度でも言いたい。寒いですねって。
「今日はとても幸せです」
そう、本当は天気の話も気温の話も別にしたい訳じゃない。ただ、きっかけがほしいだけだ。
だって本当に、幸せだから。
〜天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、〜
ジメジメと蒸し暑い日が近づいて半袖を着る人が増えてきた
例に漏れず自分も半袖を着ている
ただ、どういう訳か友人は半袖の上に黒いカーディガンを羽織っている
暑くないの?と聞くと
もちろん暑い
黒いから熱を吸収して、ことさらに暑い
それでも何か羽織りたいのだ
と返ってくる
じゃあなんで、とさらに聞くと
「なんとなく」
そうはぐらかされた
梅雨が明け、本格的な夏がやってきた
おはよう、そう言ってやってきた友人は半袖だった
「半袖だ」
「暑いからね」
半袖から見えた彼女の腕は白く、眩しかった
〜半袖〜
他者からの好意を素直に受け取れない人の話
人から好意を向けられるのが苦手だった
「好きです」
「私は猫が好き」
中学生のときはそう言って知らんぷりした
「好きです」
「それでどうしたいの?」
高校生のときはそう言って撤回させた
「好きです」
「私は好きじゃない」
大学生のときはそう言って突き放した
社会人になった
「好きです」
なんとなく、いいなと思ってる人だった
でも、私は
「私じゃ君を幸せにできない」
「好きだから、私以外の人と幸せになってほしい」
そう言って、呪った
どうか、誰も私に好意を向けないで
〜逃れられない呪縛〜
『じゃあ、明日いつもの場所ね!!』
『うん、また明日』
そう言って何度も約束し続けた明日は、
ついに今日の私たちに来なかった。
いつもの制服でいつもの小言
いつもの時間にいつもの場所
いつもの景色といつもの朝日
全部いつもと一緒だったから、
異変なんてものは特別目立ってしまう。
「ねぇ、どうしたの…その格好」
開口一番に出てきたのは『おはよう』じゃない。
「ごめん」
「ごめんって…ごめんじゃないよ!!
なんで、なんで男子の制服なんか着てんの!?」
「だって、僕は『男』だから」
そんなの、知ってるけど
でも、そんなの知らないよ
昨日までの君はちゃんと『女の子』だったのに
〜突然の別れ〜