薫衣草

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「月が綺麗ですね」
実に有名な構文だ。
まぁ、残念ながら君には伝わらないのだけど。

「星が綺麗ですね」
月が綺麗なのが伝わらない君に分かるわけがない。ついでに君は本当に知らないんだ、この言葉に込めた意味も、想いも。

「雨、止みませんね」
君は雨が降っていようといまいと外へ飛び出していくから、情緒もへったくれもないんだよ。

「雨音が響いていますね」
第一にそんなことを君に対して言うつもりは毛ほどもない。だけど、いつか僕がこの感情に整理をつけた日には言ってしまうのかもしれないね。

「夕日が綺麗ですね」
そう言うと、きっと君は夕日に見とれてしまうから言いたくない。

「明日は晴れますか?」
能天気な君のことだ、天気予報を見なくても絶対に晴れる!!って宣言するだろう。……天気予報を見なくてもわかる、晴れるわけがない。

「今日は少し肌寒いですね」
じゃあ体温を分けたげよう、なんて言いながら君は手を差し出してくる。意味が通じてないはずなのにほしいものをくれるのは嬉しい。けど、それはそれで癪に障る。

「暖かいですね」
まるで君みたいだ。なんてキザったらしい言葉は飲み込んだ。

「寒いですね」
本当に寒いと君は何も言わなくなるし、動きもうるさくない。縮こまっている様子が可愛いから、何度でも言いたい。寒いですねって。

「今日はとても幸せです」
そう、本当は天気の話も気温の話も別にしたい訳じゃない。ただ、きっかけがほしいだけだ。
だって本当に、幸せだから。

〜天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、〜

5/31/2023, 3:00:27 PM