薫衣草

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中学3年
定期試験の解答用紙が返却され、夏休みが迫る頃
受験を考え始める時期だ。

「俺さ、お前のことが好きだ」

2人きりの蝉の声響く放課後の図書室で、私の幼なじみで初恋の男の子が言った。

「……まじか」
「うん、まじ。返事は後でいいから」

そう言って書庫の整理へ向かおうとする制服の袖を引き寄せた。

「私も、私も好き!」

お互い顔を真っ赤にして、夏のせいだと言いながら2人で抱きしめあった。
やっぱり蝉は鳴いていた。


夏休み
花火大会で、木に隠れてキスをした。ファーストキスは甘酸っぱいりんご飴だった。
互いの家で宿題をしたり、受験勉強をしたり、たまにゲームをしたり普段と変わらない過ごし方ではあったが、それでも特別だった。
来年も、一緒にいたい。
だから、同じ高校に行く約束をした。
私は少し勉強を頑張らないと入れないけど、君が教えてくれるって言ったから、苦手科目も頑張れる。



まるで夢のように素敵な日々
否、これは私の記憶
遠い夏の日の甘やかな思い出

君はこの懐かしい日々の数日後、交通事故に遭う。
新学期が始まる2日前だった。
そのまま君は帰らぬ人となり、私は約束の高校へ進学した。
それなりに充実した日々を過ごして大学生になり、成人した。

君をあの夏の日においてけぼりにしたまま

私は大人になった。

あぁ、蝉の声が聞こえる。

〜朝、目が覚めると泣いていた〜

7/10/2022, 5:21:36 PM