" Oh,don't cry. Don't cry. Smile! "
馬に人参をあげようとして指を噛まれた私に、ホストマザーが慌ててかけた言葉
3年経った今でも私の左手の薬指の中節には白く傷が残っている
きっとこの傷は一生消えない
その傷を作ったのはホストマザーの馬だけれど
「泣かないで、笑って」
そう言った彼女の優しさを一生思い出せる証だ
だから私はいつでも笑顔になれる
〜スマイル〜
大きい針と小さい針
何度も重なるけど、
綺麗な数字で重なるのは1日に2回だけ
鐘が12回鳴るとき
背の高い君と背の低い私
何度もすれ違うけど、
会話ができるのは1日に2回だけ
通学路を歩くとき
あ、鐘が鳴ったから帰らなきゃ
〜時計の針〜
額、目蓋、頬、鼻先、耳朶……
ふわふわやわやわで心地がいい
お楽しみの唇は最後までとっておく
〜Kiss〜
「1000年先も一緒にいたいなぁ」
「それまでに何回死ぬかな」
君は悲観的だねぇと間延びした声でたしなめられる。あなたが楽観的なだけ、そう言おうとして口を開きかけた。しかし、声の代わりに息が漏れる。
あぁ、もう死ぬのか。
また、あなたを残して死ぬのか。
「今回は今日で終わりか、寂しいね」
そんな表情で、そんな声色で、そんなこと言わないでほしい。
何度経験しても慣れないな
自分は前世の記憶を引き継いで生まれ変わることができる。ずっと昔からという訳ではない。この人がある病を抱えてからだ。
「そろそろ目、閉じたら?眠たいでしょ」
温かい手が目を覆う。
手足が冷たくなっていく気がする。
感覚が麻痺しているのか。
「そういえば君、危篤でも耳だけは機能してるって言ってたよね」
たしか、前世では死ぬ直前まで周囲で遺産相続の話がされていてうんざりしたと愚痴ったことがある。だから、今世ではあなたと2人きりで生きたいと言ったんだ。
「愛してるよ
生まれ変わってまた帰っておいで」
死んでも死なないのは、
不老不死の病を患ってしまったあなたの元に帰ってくるため。
愛するあなたを一生ひとりぼっちにしたくないから。
事切れただろうか
今回は早逝だった
部屋を片づけて、引越しの準備を始める
次はどこで君の帰りを待とうか
〜1000年先も〜
キトンブルーの目をキラキラさせて
甘い声で擦り寄って
キトンキャップを被ったおしゃれなキミ
パヤパヤした毛が柔らかくて
青い可憐な花が咲く頃に生まれて
その花が枯れる頃に儚くなったキミ
忘れないよ
忘れるわけない
また、毛皮を着替えてうちに帰っておいで
〜勿忘草(わすれなぐさ)〜