リオ

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9/6/2024, 1:37:12 AM

 ゲームを手に彼女は笑う。
「この貝殻はオルゴール作るのに必要で、これは売値が高いから絶対売る!この見た目はたまにヤドカリになって歩いてくの」
 自分の好きなことを話す彼女の目はとてもキラキラしていて、普段ゲームをしない俺にはとても新鮮な話で。「俺もやってみようかな」なんてつい口に出てしまって。
「ほんと!?私に任せれば君も無人島マスターだ!」
 エヘン、と言わんばかりに胸を張る彼女がとても愛おしい。こんな、なんにもないけど楽しい日常が続くことを密かに願っている。

7/31/2024, 2:59:27 AM

「澄んだ瞳」

 幼い頃の純粋で素直な思考も綺麗な物を映す澄んだ瞳も大人になれば全て消えてしまった。純粋で素直な思考は出来なくなり、忖度と相手の顔色を伺いながら毎日を過ごしているし澄んでいたであろう瞳はすっかり濁り、醜いものしか映さなくなってしまった。公園のベンチに座り、一人ため息をこぼす。重苦しいそれは蝉の鳴き声と少年少女らの足音によってかき消された。
 自分にもあんな頃があった。真夏だというのに朝から友達と外でひたすら駆け回ってはしゃいで服や靴を汚しては母親に怒られた日々。今ではもう周りの視線ばかりが気になり、そんなことは出来なくなってしまった。

 あの頃に、戻りたい。

7/24/2024, 5:31:09 AM

 春夏秋冬と季節ごとに花を咲かせ、街にアクセントを添える花々を眺める。ある花はベンチで項垂れるサラリーマンの足元に寄り添うように、ある花はお小遣いを握りしめた少年の目の先に。
 昔、母に言ったことがある。
「どんなに世話しても最後に枯れるよ。片付けも大変だし造花にしたらいいのに」
 母は落ちた花と枯れた葉を片付ける手を止め、微笑みながら私に言った。
「綺麗なものが永遠に続いてしまったらそれが普通になるでしょう? 私もいつか貴方のことを忘れた短気なお婆ちゃんになるかもしれないし、貴方もいつかは素敵な人や音楽と出会うこともあれば鏡を見ながら『シミが〜、シワが〜』なんて言う日も来るでしょう」
 今も結構言ってるけどね、と私が言うと今以上によ、と母はカラカラと笑った。
「花も人も似たようなものよ。勝手に育って勝手に枯れる。その姿はその時にしか生まれないわ。造花には絶対見れない姿よ」
 まぁ、まだお子ちゃまの貴方には分からないかしら〜?と笑う母に当時の私はぶつくさと文句を言っていたが、今はなんとなくだが分かる気がする。

7/22/2024, 10:14:30 PM

 暑い夏。蝉の大合唱をBGMに俺は黒板に大きく書かれた『自習』という2文字を睨みつける。何が嬉しくて夏休みに学校に来なければいけないんだ。
 事の発端は俺の期末テストの結果だ。テスト期間ギリギリまで部活とゲームを大いに満喫した俺は見事に赤点の山を築き上げた。そんな結果だからもちろん教師に目をつけられる訳で。特に成績で態度を変える数学教師から
「いいかー、今回の期末テストで赤点が3教科以上ある生徒は夏休み最初の2週間学校に来て自習だ。宿題でも問題集でも持ってこい」
 授業の始業ベルが鳴り終わった瞬間こんなことを言うもんだからクラスはブーイングの嵐。そんな生徒の態度を嘲笑うかのように数学教師はクラスをぐるりと見渡すと
「ハッ、そんな減らず口叩く暇があるなら勉強しなかった自分を呪うんだな。生徒会長なんて全教科90点代だぞ?このクラスには3教科どころか5教科以上赤点のやつがいるぐらいだから勉強なんざ無理か?」
 明らかに俺のことである。良い年した大人がガキを弄んで楽しいかよ、と半分呆れるがこの結果を招いたのは自分であるのに違いない。数学教師は他のクラスにも同じ話をしたようで授業が始まるごとにどこかのクラスからは悲鳴とブーイングが廊下に漏れていた。