お題《ラララ》
この世界は奇劇で出来ている
たくさんの人が生きる喜劇
それは時にどうしようもなく哀れで
どうしようもなく美しい
《途中書き》
お題《風が運ぶもの》
「愛は不確かで幻想だ。君はそれでも愛は崇高だと歌うの。――ねえヒメサマ? 愛はもっと毒を孕んでいて、狂気なんだけど、それでも君は素晴らしいと俺に嘘を説くわけ?」
カラスのように夜を纏った青年は柔らかい笑顔を浮かべている
月でさえ彼を照らすのは難しく
すべての光から隔離されているようだと少女は思った
はじめて出会ったのは町の果てにある古びた教会
カラスを肩にのせた女神のステンドグラスが
印象的だったのを今でもよく覚えている
それをじっと見つめる青年は身動きもせず
何の感情も無い表情で
ただ――それを眺めているだけだった
身寄りのない少女はその教会で住まわせてもらっていた
しかし青年を見たことはなかった
町でもそんな青年はいない
見目が美しく整っていたが
吐く言葉はすべて毒でしかなく優しさはないに等しい
《途中書き》
お題《約束》
忘れじの森の氷結の湖
冬が来ると閉ざされる森
何処もかしこも月灯りがさした銀花を
美しく着飾ってお洒落して
水面に神々しく咲く氷花
薄氷の花に月灯りがゆれる
誰の面影を夢見て
誰の訪れを待つ
泡沫の恋が永遠に実ることはなく
それは夢幻でしかない
氷翠の青年はそれでも永遠にここで待つ
あの日彼女が残していった春の花弁をお守りに
春を忘れた青年は
春を手に入れた
常春の彼女は今も行方知れず
冬の蝶が舞うこの森で青年は
空白な虚ろを抱いてひたすら待つ
きっといつか春はここへ舞い降りると信じて
氷翠の青年は永遠を夢見て
冬の湖に散っていく
お題《ひらり》
夢路で花木から淡いの花弁が零れ落ちる
深々と地面に舞い落ち一面ミルク色
ふわりと仄かに甘い香りが心をくすぐる
ミルクの海に沈んでいく
器の痛みも記憶の痛みもすべて
真っ白な世界へ朧気に
風花となって運ばれ
蝶になって空を羽ばたく
あなたを探して
「俺の持つ月灯りをお前にやろう。お前がこの先、一生迷わないように」
月光花の海で月灯りが瞳に零れ落ちる
あなたの瞳から届けられた奇跡
でもそれは
――永遠にあなたを失うこと
《途中書き》
お題《記録》
人は忘れてしまう生き物だから
だから物語を綴り
歌にして記憶を語り継ぐ
いつかの遠い未来で
あなたへと託すために
翡翠の蔦に護られるように
森の海に深く眠るアンティーク図書館
想いを編んだ言の葉に触れ
誰かの物語を知る
英雄の物語
魔法使いの物語
失われた世界の物語
幸せも不幸もぜんぶたからもの
心の中に星が瞬いて夜を照らす
砂漠の海を越えて
それぞれの心に届けられる物語と歌がある
それは“あなた”へと託された
誰かのたからもの