お題《約束》
忘れじの森の氷結の湖
冬が来ると閉ざされる森
何処もかしこも月灯りがさした銀花を
美しく着飾ってお洒落して
水面に神々しく咲く氷花
薄氷の花に月灯りがゆれる
誰の面影を夢見て
誰の訪れを待つ
泡沫の恋が永遠に実ることはなく
それは夢幻でしかない
氷翠の青年はそれでも永遠にここで待つ
あの日彼女が残していった春の花弁をお守りに
春を忘れた青年は
春を手に入れた
常春の彼女は今も行方知れず
冬の蝶が舞うこの森で青年は
空白な虚ろを抱いてひたすら待つ
きっといつか春はここへ舞い降りると信じて
氷翠の青年は永遠を夢見て
冬の湖に散っていく
お題《ひらり》
夢路で花木から淡いの花弁が零れ落ちる
深々と地面に舞い落ち一面ミルク色
ふわりと仄かに甘い香りが心をくすぐる
ミルクの海に沈んでいく
器の痛みも記憶の痛みもすべて
真っ白な世界へ朧気に
風花となって運ばれ
蝶になって空を羽ばたく
あなたを探して
「俺の持つ月灯りをお前にやろう。お前がこの先、一生迷わないように」
月光花の海で月灯りが瞳に零れ落ちる
あなたの瞳から届けられた奇跡
でもそれは
――永遠にあなたを失うこと
《途中書き》
お題《記録》
人は忘れてしまう生き物だから
だから物語を綴り
歌にして記憶を語り継ぐ
いつかの遠い未来で
あなたへと託すために
翡翠の蔦に護られるように
森の海に深く眠るアンティーク図書館
想いを編んだ言の葉に触れ
誰かの物語を知る
英雄の物語
魔法使いの物語
失われた世界の物語
幸せも不幸もぜんぶたからもの
心の中に星が瞬いて夜を照らす
砂漠の海を越えて
それぞれの心に届けられる物語と歌がある
それは“あなた”へと託された
誰かのたからもの
お題《一輪の花》
永遠に咲き続けることができたのならば
あなた様の心に泉をもたらすことができたのでしょうか
枯れゆく運命を変えることはできない
あなたは黎明の不死鳥で
わたしは泡沫の花
「恋をすればお前は――もう花にもなれない。もう、お前はお前でいられない」
魔女の青年が告げたのは残酷な真実
それでもかまわないわ
だってわたしは…………
「オレにとっての花はおまえだけだ」
ブルーモーメントの空を映したようなひとりきりの花は
黄昏の狭間
焼き果てた森の残骸で
黎明のあなたに拾われた
お題《魔法》
「“祈り”は一番簡単な魔法だよ。――深い意味ではちがうけど。まあ君にはどうでもいいことか」
祈りは魔法。
ただしそれは現代では通じる魔法じゃない。
夜明けより遠い遥か彼方の時代だ。
夜が支配していた頃の。
――そして。
私には魔法が使えない。
現代では珍しい、希少種として扱われている。
「ああ見て。夜よ。あの忌まわしき夜の……」
「ああ……呪いの子か」
夜は現代では嫌われている。
遠ざけられた夜。
《途中書き》