椿灯夏

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3/5/2025, 7:29:39 AM

お題《約束》

忘れじの森の氷結の湖

冬が来ると閉ざされる森

何処もかしこも月灯りがさした銀花を

美しく着飾ってお洒落して

水面に神々しく咲く氷花

薄氷の花に月灯りがゆれる


誰の面影を夢見て

誰の訪れを待つ


泡沫の恋が永遠に実ることはなく

それは夢幻でしかない


氷翠の青年はそれでも永遠にここで待つ

あの日彼女が残していった春の花弁をお守りに


春を忘れた青年は

春を手に入れた


常春の彼女は今も行方知れず


冬の蝶が舞うこの森で青年は

空白な虚ろを抱いてひたすら待つ


きっといつか春はここへ舞い降りると信じて



氷翠の青年は永遠を夢見て


冬の湖に散っていく

3/4/2025, 9:35:30 AM

お題《ひらり》


夢路で花木から淡いの花弁が零れ落ちる

深々と地面に舞い落ち一面ミルク色

ふわりと仄かに甘い香りが心をくすぐる

ミルクの海に沈んでいく

器の痛みも記憶の痛みもすべて

真っ白な世界へ朧気に

風花となって運ばれ

蝶になって空を羽ばたく


あなたを探して


「俺の持つ月灯りをお前にやろう。お前がこの先、一生迷わないように」


月光花の海で月灯りが瞳に零れ落ちる

あなたの瞳から届けられた奇跡



でもそれは



――永遠にあなたを失うこと



《途中書き》

2/26/2025, 1:08:37 PM

お題《記録》


人は忘れてしまう生き物だから

だから物語を綴り

歌にして記憶を語り継ぐ

いつかの遠い未来で

あなたへと託すために


翡翠の蔦に護られるように 

森の海に深く眠るアンティーク図書館

想いを編んだ言の葉に触れ

誰かの物語を知る


英雄の物語

魔法使いの物語

失われた世界の物語

幸せも不幸もぜんぶたからもの

心の中に星が瞬いて夜を照らす

砂漠の海を越えて

それぞれの心に届けられる物語と歌がある


それは“あなた”へと託された

誰かのたからもの

2/24/2025, 12:01:58 PM

お題《一輪の花》


永遠に咲き続けることができたのならば


あなた様の心に泉をもたらすことができたのでしょうか


枯れゆく運命を変えることはできない


あなたは黎明の不死鳥で


わたしは泡沫の花


「恋をすればお前は――もう花にもなれない。もう、お前はお前でいられない」


魔女の青年が告げたのは残酷な真実



それでもかまわないわ


だってわたしは…………



「オレにとっての花はおまえだけだ」




ブルーモーメントの空を映したようなひとりきりの花は


黄昏の狭間


焼き果てた森の残骸で



黎明のあなたに拾われた


2/23/2025, 11:48:15 AM

お題《魔法》



「“祈り”は一番簡単な魔法だよ。――深い意味ではちがうけど。まあ君にはどうでもいいことか」



祈りは魔法。

ただしそれは現代では通じる魔法じゃない。

夜明けより遠い遥か彼方の時代だ。

夜が支配していた頃の。



――そして。


私には魔法が使えない。


現代では珍しい、希少種として扱われている。


「ああ見て。夜よ。あの忌まわしき夜の……」

「ああ……呪いの子か」



夜は現代では嫌われている。


遠ざけられた夜。


《途中書き》

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