お題《君と見た虹》
これは時の霧がみせる記憶
記憶の神隠しに遭った者が失くしたもの
あるいは――手離した、あったはずの記憶
朧気に存在する霧の森
陽を拒み
夜の底に沈んだ幻
森の奥から聴こえるのは
物語を綴る音
物語を詠む音
記憶の音
ただそれだけが、永遠に流れてゆく
遠いどこかの国の童話に描かれた
美しい虹のはし
おれは識っている
でもそれはおれじゃない、おれの、
錆びた記憶の物語
「――虹の色は感情で彩っているの。今私たちは幸せだから――だね」
――虹の色がみえない
記憶が混ざり合う
ここではすべてが偽りで、不確かだ
お題《手紙の行方》
風花のように遠くへ流浪する
想いの言ノ葉を探して
何処かにある自分だけの特別な言ノ葉探して
何処へゆけるかわからないけど
何処が終着点かわからないけど
それが幸せで
それが居場所
終わらせるよりいい
旅人でいよう
何処へゆけるか風に身を任せて
お題《輝き》
「なあ! 昨日のニュース見たか!?」
真夏の寄宿舎に響く真夏に負けないくらい
熱を帯びた声
「竜星群だろ。みんなあっちこっちで、その話で持ちきりだからな。ラズで10回目だよ、言ってきた奴」
「くっそー先越されたかあ。俺が絶対一番だと思ったのに」
崩れ落ちるこいつはラズライト
透きとおった天青の双眸の瞳が綺麗な
明るく嘘がつけないクラスメイト
竜星群――真夏に星の海を渡り竜の群が、流れ星のように
この地上へ流れてくることから、そう言われている
人間は幻想が好きだ
お伽話のように語られていたファンタジーの竜
それが真実として存在していたならば
それは夢が叶った証明
「なあカラクサ、一緒に竜星群見に行こうぜ。そんでもって竜と友達になって冒険したいな、お前とさ」
――翡翠ソーダ水の海
こいつといると、ずっと夏の季節を泳いでいるみたいだ
心に広がる夏の風景に思わず笑みがこぼれる
「ラズが心配だから行くよ、一緒に」
願わくばこの先もずっと君のトナリで
季節を泳いでいきたい
お題《時間よ止まれ》
春は零れ落ち
花弁となって空へと逃げていく
魔王様と手にした日常が幻想でもいい
魔王様と交わした約束が自分にはちゃんとある
魔王様と紡いだ泡沫の日常は鮮やかに胸の奥で咲いている
リシュティアの手の中には暁の薔薇の花びらがある
涙の雫を吸ったその花が彼女に届けたのは
彼が生きた物語の証だった
すべては雨の日から始まった
どんな残酷な運命も夜明けに変わる
カタストロフィさえもそれは変えられない
《途中書き》
お題《君の声がする》
朱に染まりゆく空はまるで血
地上を煌々と燃やす炎の花が天をもあかくする
この夜《世》こそが地獄かもしれない
下弦の月が見下ろす夜
すべてが一変した
君の声が
君の声は
もう、きこえない
涙の雫をすすり
不変の覚悟を心奥に抱いて
ひたすら地を蹴る
いつもきこえていた君の声が
いつもはなしかけてくれた君の声が
この世から悪は絶対なくならない
何故ならばそれは――人間がこの世界にいるからだ。
俺はそれを良しとはしない。
でも君が。
君が――――望むから。
俺は。
俺のやり方で、この世を正す。