お題《どこまでも続く青い空》
ネモフィラの花の海が風に誘われ泳ぐ。花の海の向こうに広がるのは、果てしない蒼海だった。
花の海の真ん中にお墓が建てられているが、立ち寄る者は誰一人いない。花の香りに導かれ訪れるのは、遠い旅路の果てにたどり着いた蝶だけ。
空はラピスラズリのように知的で、美しい。もし人だったらクールで、本が似合いそうなイケメンかもしれないなと思う。
わたしは祈った。
かつてのわたしはずっと引き籠もったまま空を、部屋から見るだけだった。でも今は、鳥籠から出て行けられたから――幸せだと思う。
わたしは正しい。
でも世間では、きっと正しくない結末だろう。
わくわくしながら読み進めた物語が、結末はつまらない、みたいな。
わたしは祈った。
たったひとりでいい。
――わたしを理解してくれる、寄り添い、微笑んでくれる誰かとの邂逅を。
お題《声が枯れるまで》
世界は残酷だった。――奪われた宝物はすべて、自分が愚かで、無知で、力がないからだと歌う。世界は誰も救いはしない。価値なき者には、滑稽な物語には。
でもあなたはもっと、残酷だった。――笑顔で毒を吐き、誰かの大切な宝物を平気で葬ることができる、蝶葬の悪魔。
私の楽園を埋めた。
誰かの物語を踏みにじるのは、許されざる大罪だ。
私の怒りは、紅蓮の鳥を幻想させる。
これは終わりなき奪い合い、守るための物語。
お題《始まりはいつも》
どこの世界にいっても黄昏の空に、淡い雨が降る。
でも。おまえは隣にいない。
孤独の空白を埋めてくれたあの日、おまえは夜明けの空のように道を照らしてくれた。――わかっていたんだ、おまえとの出会いは終焉への、始まりだと。
それでも俺は何度でも神に願うよ。
――この世界に神とやらがいるのならば。
『わたしがいるよ。どこにいても、あなたを守るよ』
ルリシアと出逢い花が降り始め、そして、花が散り始めた。
お題《忘れたくても忘れられない》
桜面影通りに行けば《あなたの心にある、あの人によく似た大切な人に会える》という、なんとも不確かで怪しい都市伝説がある。
真実不明、信憑性ゼロ。
さっき一気飲みしたミネラルウォーターのせいで、胃が少しきりきりする。
《現実みなよ》と友人に冷たく吐かれた言葉に苛ついて、私はひとり、夜酒にふけっていた。
頭の中をリフレインする、烏の青年のあの言葉。
《世の中真実か嘘かなんて、大したことじゃない。大切なのは自分にとっての、得るものだ》
私は、冷たい風が彷徨う夜の町へと消えてゆく。
一輪の花を握りしめて。
お題《鋭い眼差し》
それは永遠とも刹那とも想える時間だった。
時が疾風のように駆け去ったようにも、時が凍りついたようにも感じた、魂の語りでもあった。
瞳と瞳が、真実のみを語る。
けっして偽りなど、そこには存在しない。
明日白銀の月が忘れじの国の闇を炙り出す夜に、世界は終焉か黎明を迎えるのだ。
そこにお前がいなくとも。