お題《これまでずっと》
「俺と一緒に来るか」
錆びた街の片隅差し伸べられた手は、光の一雫のようだった。
凍てついた夜風が白い花弁を舞い上げる。青い月を背に佇む青年は――鳥の王だ。編み込んだ後ろ髪には、天青石の髪飾り。胸元を飾るのも、青く澄んだ宝石だった。
彼の肩には見たこともない鳥がとまっている。
「どうして? だってわたし、何も持ってないよ……」
「あるじゃないか。俺はお前の微笑った顔が好きだ、お前の奏でるハープの音色も歌も――全部好きだよステラ」
「――――っ」
もう呼ぶ人がいないその名は。
もう、誰も好きだと言ってくれないはずだった、それなのに。
この人は、あたたかい。
木漏れ陽のように。母が昔作ってくれたスープのように。
お題《1件のLINE》
神隠しの杜。
そこは夏の記憶の中、忘れじの森。
貴女を待っている。
夏の記憶で。――でもそこに《季節》はない。
初夏に舞い込んだのは、忘れたくても忘れられない言葉の森だった。
お題《目が覚めると》
春は過ぎ去り命が眠る冬になっていた。
『――おはよう』
旅人の言葉は、どんな言葉よりも優しく重たいものだった。
「……おは、よう」
沈んだ言葉が浮上するには、まだまだ時間はかかるだろう。それでも今、返したかったどうしても。
旅人は何も言わなかった。それでも確かに想いは伝わり繋がっていて、千年たとうが二千年たとうが、オレたちの関係性は何も変わらない。
窓の外では白い花が舞っている、まるでふたりを祝福するかのように。
お題《私の当たり前》
日常の片隅空想にふけること。
綴ること。
物語の海を游ぐこと。
ひとりきりの世界に星が瞬き、星の海となる。
ひとりきりじゃない。
私のそばには《物語》があった。
お題《七夕》
コンペイトウが散らばる紺碧の空に向かって伸びる竹は、願い事を織姫と彦星に届けようとしているのだろうか。
麦茶を飲みながら縁側で空想にふける。足元で戯れる猫をいなしながら、風に泳ぐ短冊を魚みたいだなと思わず笑ってしまう。
「兄ちゃん願い事なに書いたの? ぼくが彼女できるように書いてあげようか」
「兄ちゃんはモテるんです」
「ほんとに〜?」
台所からこっそりスイカをくすねてきた弟が差し出す、ルビー色に輝く果実を受け取る。
俺が願ったのは――もう、叶えられているけど。
でもいいんだ、それで。