お題《これまでずっと》
「俺と一緒に来るか」
錆びた街の片隅差し伸べられた手は、光の一雫のようだった。
凍てついた夜風が白い花弁を舞い上げる。青い月を背に佇む青年は――鳥の王だ。編み込んだ後ろ髪には、天青石の髪飾り。胸元を飾るのも、青く澄んだ宝石だった。
彼の肩には見たこともない鳥がとまっている。
「どうして? だってわたし、何も持ってないよ……」
「あるじゃないか。俺はお前の微笑った顔が好きだ、お前の奏でるハープの音色も歌も――全部好きだよステラ」
「――――っ」
もう呼ぶ人がいないその名は。
もう、誰も好きだと言ってくれないはずだった、それなのに。
この人は、あたたかい。
木漏れ陽のように。母が昔作ってくれたスープのように。
7/12/2024, 11:17:44 AM