椿灯夏

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4/1/2024, 12:04:44 PM

お題《エイプリルフール》


「この箱庭から出られるんだよ、この星の鍵さえあれば」



水のように澄んだ微笑みだった。


この箱庭からは出られない。そうずっと聞かされ育ったニーナはまさか、と思いながらもその甘い蜜のような言葉を信じてしまった。


「はい、あげる」


「カインは行かないの?」


「うん。ぼくは、いいんだ」



この時は不思議に思わなかった。だってカインはいつも優しくて、本当の兄のようだった。――だから氷結の森を抜けようと際、星の鍵が粉々に砕け散った瞬間――心が夜の底へ、壊れたのは箱庭から出られるかもしれないという希望なのか、カインへの信頼なのか、何もわからなかった。





果てしない嘘しかこの箱庭にはない。




知っていれば、壊れなかったのに。




3/31/2024, 1:19:45 PM

お題《幸せに》



月夜の海岸。


波に運ばれる淡いの花。


手を繋いで灯した愛も枯れ果てて。


今頃あなたは――恋人と幸せを語り紡いでいることでしょう、この場所で別れの歌を聴いた日は悪夢だったけれど、今は。



確かに願うのです。



あなたの笑顔が再生される。



記憶の笑顔を道しるべに。

3/26/2024, 4:44:53 AM

お題《好きじゃないのに》



「あなたには――が似合うわ」


「――と――、どっちにする?」




私は曖昧に笑って、興味なさげに適当にえらぶ。



心を殺して閉ざして生きる人生は――無価値以外の何者でもない。



だから。


月灯りのように、静かで穏やかな笑みを浮かべて。




「大丈夫。ゆっくり選ぼう、いくらでも待つよ。君の言葉、なんでもいい。聞かせて?」





それは、静かに涙雨が降る時間でした。


3/24/2024, 4:10:51 PM

お題《ところにより雨》



神隠しに逢ったあの人を追ってゆく先で必ず降る、蒼白の雨。



でもその雨は。



「私にしか、見えない」





この世界は不自然で、そして奇妙だ。



いまだ真実は遠く、雨は、私に幻想をかける。


3/23/2024, 12:42:13 PM

お題《特別な存在》


月灯り、木漏れ陽。


彼の人生はそれしか記憶にない。光に祝福された、生。


黄昏も深い深淵の泳ぐ夜の底など識らないのだ。



彼女は水鏡に映る己の姿を見て、嘲笑した。



醜い灰の髪に痩せこけた頬。



粗末な布で織られたワンピース。



彼とは、何もかもが真逆なのだ。



彼女は一瞬でも愛を咲かせた真実を、心底嘆いて深淵と消えていった。



永遠に彷徨い歩くのだとしても。それは、安らぎの揺り籠に過ぎない。


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