お題《エイプリルフール》
「この箱庭から出られるんだよ、この星の鍵さえあれば」
水のように澄んだ微笑みだった。
この箱庭からは出られない。そうずっと聞かされ育ったニーナはまさか、と思いながらもその甘い蜜のような言葉を信じてしまった。
「はい、あげる」
「カインは行かないの?」
「うん。ぼくは、いいんだ」
この時は不思議に思わなかった。だってカインはいつも優しくて、本当の兄のようだった。――だから氷結の森を抜けようと際、星の鍵が粉々に砕け散った瞬間――心が夜の底へ、壊れたのは箱庭から出られるかもしれないという希望なのか、カインへの信頼なのか、何もわからなかった。
果てしない嘘しかこの箱庭にはない。
知っていれば、壊れなかったのに。
4/1/2024, 12:04:44 PM