お題《バレンタイン》
月灯りで発酵させたチョコレートケーキは満月のように、煌めく。
月光を集める大窓は高い買い物だったが、お菓子づくりには欠かせない代物だ。紅の魔女はたくさんのあかい花を飾った魔女のとんがり帽子をかぶり直し、夜空へ飛び出す。
夜空にあかい花弁が優雅に散る。
今日はバレンタイン。
無気力魔法使いにでも食べさせて、絶対美味しいと言わせる――そう強く誓ってほくそ笑む。
絶対、落としてやるんだからと。
お題《待ってて》
出せない手紙は灰になって空に舞う。
言の葉を綴っていた時あんなにふわふわした気持ちは、もうない。
彼は光だった。
教室の中で輝くあたたかい光。
夢見てた世界に少しでも近づきたくて、笑顔の綺麗な彼にはじめて手紙を書いた。――でも。彼の傍で笑う美人で明るい花村さんが隣にいるのを見たら、涙があふれて止まらなかったんだ。
ありったけの勇気をかき集めて書いた手紙でも、叶わない夢。
――またいつか。
手紙を書けたら、今度は渡せるかな。
お題《伝えたい》
言葉を綴ることは命を繋ぎ止めること。
物語を綴ることは命の煌めき。
私にとって、この世界はちっともやさしいものじゃないから。
だから物語を幻想化しちゃうのだろうか。
だから物語に夢を見てしまうのだろうか。
たとえ《最果て》に今いたとしても。
誰からも理解されなかったとしても。
――だから《今》の自分がいいんだ。
その先に答えがあるよ。
お題《誰もがみんな》
強くも弱くもない。
剣と盾を持ち、必死で生きている。
強さも
弱さも
自分で磨いてゆくものだから。
お題《花束》
公園を冷たく照らす青い満月。
月下――公園のゴミ箱に詰め込まれた色褪せた花束。
それを無言で見つめる青年。
あんなに愛しい日々を綴り合った恋人は、たった一言だけ言い残して去った。
「好きな人ができたの」
――それがどんなに残酷の言葉か。
――君は知らないから。簡単に告げられるんだろうね。
悲しさも後悔もないかのように、恋人の足取りは軽やかだった。その踏みしめた道には春が咲いているようで、青年とは正反対で。
「もうどうでもいいや。明日世界が壊れたって、僕にはどうでもいい――」
そうぽつり……とつぶやき、青年は歩きだす――その道には冬が、蒼く煌めいていた。