椿灯夏

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7/31/2022, 12:20:02 PM

お題《だから、一人でいたい。》



叶うなら、その腕の中にいたかった。


叶うなら、あなたを殺すのは――。





「もう泣くな。大丈夫だから……俺がいるから、なくな……」



血の海を照らすのは月。


朱は互いの衣を美しく冷酷に、染めあげる。

子供みたいに泣きじゃくる少女を抱きしめる青年は、この時一体何を想ったのだろう。





突き刺さる静寂と罪。


それでも、あなたとはなれられない――。



7/30/2022, 2:06:03 PM

お題《澄んだ瞳》



その瞳は、果ての果てまで見通す――。



この瞳は災いだ。


しりたくもない真実を識り、そして見せる。



それでもこの瞳は希望《のぞみ》だ。



「――この手がどれだけ血で濡れようと。俺はおまえのためなら、捨てられるんだ希望《のぞみ》を」





世界を識る者と世界を渡る者。




わたしたちが夢みた世界は、どこで違えてしまったんだろう。



《同じ瞳》を持つ者なのに。





7/29/2022, 11:41:01 AM

お題《どんなに嵐が来ようとも》



 路傍の花は眠る


 暁がくると信じて



どれだけ泥にまみれても


どれだけ深い孤独にいても




 路傍の花は目覚める


 暁がくることを知っているから

7/28/2022, 11:25:32 AM

お題《お祭り》


カラカラ。


カラカラ。




鳥居の向こうから風車が廻る音がする。


鳥居の向こうから、手招きするだれか。


あれは誰だったか。



すべては黄昏の向こうへ消えてしまった。



今も夏祭りが終わった、夏の終わりは、あの鳥居から風車の廻る音がする。



カラカラ。


カラカラ。



――よぶのは。


――よばれているのは。




だ、あ、れ、?




7/27/2022, 11:44:43 AM

お題《神様が舞い降りてきて、こう言った。》



おまえの淹れたお茶が飲みたい。


神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ。





星空が綺麗な夜ベランダに、突然その青年は降りてきた。一瞬流れ星が落ちてきたんだと錯覚してしまったが、どうやら違うらしい。



「――覚えてるおれのこと」

「どこかでお会いしましたっけ……?」

「そう」


戸惑いつつも、何気ない雑談をする。そのくせ自分の話はまったくしないものだから、おもに私の話になってしまったが。


それでも嫌な顔ひとつしない。


なんだろう……この小さな違和感。


どうしていいかわからず、とりあえずお茶をすすめてみることにした。お茶を淹れることは得意なのだ。祖母が茶道の先生だったからか、自然と茶道に触れ身についてしまった。


「あのう、お茶淹れましょうか? なんでもお好きなお茶淹れますよ」


「ほんとうか?!」


急に少年のようになって、不覚にもときめいてしまった。胸の中に流れてゆく流れ星。


そしてこう言った。






「おまえの淹れたお茶が飲みたい。


神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ」




この感情を、織りまぜてお茶にしてみようか。



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