お題《だから、一人でいたい。》
叶うなら、その腕の中にいたかった。
叶うなら、あなたを殺すのは――。
「もう泣くな。大丈夫だから……俺がいるから、なくな……」
血の海を照らすのは月。
朱は互いの衣を美しく冷酷に、染めあげる。
子供みたいに泣きじゃくる少女を抱きしめる青年は、この時一体何を想ったのだろう。
突き刺さる静寂と罪。
それでも、あなたとはなれられない――。
お題《澄んだ瞳》
その瞳は、果ての果てまで見通す――。
この瞳は災いだ。
しりたくもない真実を識り、そして見せる。
それでもこの瞳は希望《のぞみ》だ。
「――この手がどれだけ血で濡れようと。俺はおまえのためなら、捨てられるんだ希望《のぞみ》を」
世界を識る者と世界を渡る者。
わたしたちが夢みた世界は、どこで違えてしまったんだろう。
《同じ瞳》を持つ者なのに。
お題《どんなに嵐が来ようとも》
路傍の花は眠る
暁がくると信じて
どれだけ泥にまみれても
どれだけ深い孤独にいても
路傍の花は目覚める
暁がくることを知っているから
お題《お祭り》
カラカラ。
カラカラ。
鳥居の向こうから風車が廻る音がする。
鳥居の向こうから、手招きするだれか。
あれは誰だったか。
すべては黄昏の向こうへ消えてしまった。
今も夏祭りが終わった、夏の終わりは、あの鳥居から風車の廻る音がする。
カラカラ。
カラカラ。
――よぶのは。
――よばれているのは。
だ、あ、れ、?
お題《神様が舞い降りてきて、こう言った。》
おまえの淹れたお茶が飲みたい。
神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ。
星空が綺麗な夜ベランダに、突然その青年は降りてきた。一瞬流れ星が落ちてきたんだと錯覚してしまったが、どうやら違うらしい。
「――覚えてるおれのこと」
「どこかでお会いしましたっけ……?」
「そう」
戸惑いつつも、何気ない雑談をする。そのくせ自分の話はまったくしないものだから、おもに私の話になってしまったが。
それでも嫌な顔ひとつしない。
なんだろう……この小さな違和感。
どうしていいかわからず、とりあえずお茶をすすめてみることにした。お茶を淹れることは得意なのだ。祖母が茶道の先生だったからか、自然と茶道に触れ身についてしまった。
「あのう、お茶淹れましょうか? なんでもお好きなお茶淹れますよ」
「ほんとうか?!」
急に少年のようになって、不覚にもときめいてしまった。胸の中に流れてゆく流れ星。
そしてこう言った。
「おまえの淹れたお茶が飲みたい。
神様の身代わりであるおれに、あのとき淹れてくれたお茶をもういちど飲ませてくれ」
この感情を、織りまぜてお茶にしてみようか。