お題《視線の先には》
秋の雪がはらはらと散りゆく街は黄昏色に染まる。
切り取られた季節は繰り返す。
ある青年は言った。「ここは誰かの夢。誰かの季節。失いたくない、このままでいたい――“繰り返す”にはじゅうぶんだろう?」
ある少女は嘆いた。「想いは時に人を苦しめます。それでも想わずにはいられないでしょう、わたしたち人は」
ある少年は、それを絵に描きのこす。
「僕にできることは、絵を描くことだから。この街を描くんだ。それがきっと救いになるって信じてる」
誰かの夢。
誰かの季節。
たったひとりの誰かを救うことが、この季節の先に繋がるんだ。
お題《私だけ》
長い旅路の果ての足跡は 私が今まで歩んできた軌跡
誰にも歩むことなんてできない
私だけの旅
私だけの宝物
《あなた》だから、ここまで来れた
《あなた》だけの旅の
《あなた》だけの物語を聞かせて?
紅茶に星屑を落として 心地よい風に揺られて
物語は始まる――
お題《遠い日の記憶》
永遠に色あせないあの日の夢。
夢を語ったあの日――竜とはじめて、永遠の絆が生まれた。
竜を生涯の絆《パートナー》とし生きる竜黎《りゅうれい》の民。
ともに学び、ともに働き、ともに夢をみる、伝承の民。
だけど、俺とその竜は……。
竜は部屋の片隅に丸くなって眠っている。黎明を思わせる美しい色をした竜だ、いつも日常をともに過ごしてても――俺にはまったく興味がない。
「あのさ、レクイエムの丘の向こうに、美味しい月菓子の店ができたんだって。今度一緒に行ってみないか?」
竜は相変わらず何の反応も示さない。
……俺、どれだけこいつに嫌われてるんだろう。
本当は。本当はもっと、仲良くなりたいんだけど……。やっぱりうまくいかないよな。
俺の夢は――永遠に叶わないのかもしれない。
いつものように、レクイエムの丘へいくと、少年が笛を奏でていた。その傍らには夜色の竜がいる。この丘には竜が好きな花が咲いているから、いつも来るが――この少年とははじめて会う。
露が光る金色の花に囲まれた少年がこちらに気づく。
「こんにちは。ここはいいところだよね」
「……ああ」
一目でわかる。この少年と夜色の竜の、色あせない絆。一瞬たりとも揺らいだりしない、強い絆が。
「うらやましいな、君と竜の絆が。俺にはないものだ」
「――僕もはじめはそうだった。竜は永遠とも知れない長い時間を生きるもの、だからこそ大切なんだ絆は。あなたはどれほど竜と語った?」
「そ、それは」
少年は服の裾をひく夜色の竜の顎を撫でてやる。その表情は幸福に満ちていて、心にゆっくりと沁み渡っていくようだ。
「だったら、語ってあげて。あなたの夢を」
「夢を……?」
「うん、きっとあなたの竜もそれを待ってるんじゃないかな」
その言葉におされて、俺は竜に語った。
俺の夢を。
この日生まれた絆は永遠だ――。
あの少年と夜色の竜と会うことは二度となかったけれど、きっと夢を叶えることができたのなら――いつかまた。
お題《空を見上げて心に浮かんだこと》
永遠なんて存在しないのだとしても
心がそう感じる瞬間があったとしたのなら
それは《永遠》なんだと想う
あなたの感じたその永遠を大切に
時につらく想う感情も
空が移ろうように
季節が色を変えるように
変わってゆくから
日々流転してゆくから
ひとつひとつがあなたの唯一無二
お題《終わりにしよう》
あなたが好きでしたよ、ほんとうに。
真実はいつも残酷だ。
それでもあなたを想うなら、別れなければ。
この先に木漏れ日のような明日はない。
「――きっと天国にはいけないでしょうねぇ」
たくさん騙して、人の幸せを奪っておいて、そんな都合のいい神様はいないだろう。
それでも僕が描いた未来には、あなたがいた。
一緒に散歩して、買い物して、食事して。あなたに似合うもの探して。それだけでよかったのに、それ以上に求めて繋がって。――あなたの香りを知ってしまった、ほんとうに罪深い。
さようならと、心の中で終わりを告げる。
「――さあいきましょうか。地獄でもどこへでも」