月下の胡蝶

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お題《遠い日の記憶》


永遠に色あせないあの日の夢。


夢を語ったあの日――竜とはじめて、永遠の絆が生まれた。




竜を生涯の絆《パートナー》とし生きる竜黎《りゅうれい》の民。


ともに学び、ともに働き、ともに夢をみる、伝承の民。




だけど、俺とその竜は……。



竜は部屋の片隅に丸くなって眠っている。黎明を思わせる美しい色をした竜だ、いつも日常をともに過ごしてても――俺にはまったく興味がない。



「あのさ、レクイエムの丘の向こうに、美味しい月菓子の店ができたんだって。今度一緒に行ってみないか?」



竜は相変わらず何の反応も示さない。



……俺、どれだけこいつに嫌われてるんだろう。


本当は。本当はもっと、仲良くなりたいんだけど……。やっぱりうまくいかないよな。


俺の夢は――永遠に叶わないのかもしれない。





いつものように、レクイエムの丘へいくと、少年が笛を奏でていた。その傍らには夜色の竜がいる。この丘には竜が好きな花が咲いているから、いつも来るが――この少年とははじめて会う。



露が光る金色の花に囲まれた少年がこちらに気づく。



「こんにちは。ここはいいところだよね」

「……ああ」


一目でわかる。この少年と夜色の竜の、色あせない絆。一瞬たりとも揺らいだりしない、強い絆が。



「うらやましいな、君と竜の絆が。俺にはないものだ」


「――僕もはじめはそうだった。竜は永遠とも知れない長い時間を生きるもの、だからこそ大切なんだ絆は。あなたはどれほど竜と語った?」


「そ、それは」


少年は服の裾をひく夜色の竜の顎を撫でてやる。その表情は幸福に満ちていて、心にゆっくりと沁み渡っていくようだ。


「だったら、語ってあげて。あなたの夢を」

「夢を……?」

「うん、きっとあなたの竜もそれを待ってるんじゃないかな」



その言葉におされて、俺は竜に語った。


俺の夢を。



この日生まれた絆は永遠だ――。



あの少年と夜色の竜と会うことは二度となかったけれど、きっと夢を叶えることができたのなら――いつかまた。



7/17/2022, 11:51:03 AM