「今この瞬間が大事なの」
わたしは言った。誤魔化すように取り繕った言葉。夜中に帰ってきたわたしに、彼が今まで頭を抱えてじっと待っていたような、悲しげな態度で疑問を投げかけてきたものだから。
君のやるべきこと、できることは他にあるだろう?
そんな風に言われて、わたしは頑なになった。
過去に縛れたくない。
未来のために今を犠牲にしたくない。
なんて浅はかな言葉だろうと自分でも思いながら吐いた。
「犠牲ではなく投資だよ」
彼はまっすぐにわたしを見て言った。切実な目をしていた。
「自分の将来に自分で投資するんだ。自分を信じて。それは大切なことだ。それができることは幸せなことでもある」
そう、幸せなことだ。余裕のある人間のできることだ。
「そんな刹那的な生き方をしていたら、君がいつか壊れてしまいそうで怖いんだ」
彼の言葉に胸がぎゅっと痛んだ。彼はこう続けた。
「失いたくない」
その瞬間、わたしはどこかで自分が長く生きる気がないのだと悟った。
わたしを置いて先に逝ってしまったあの人を、自ら置いかけることもできず、かと言って長く生きる気もない。自然と終わりが早く来るといい。
わたしは、それを口にできずただ彼の目を見つめていた。
『刹那』
朝起きたら
鳥たちが鳴いていた
美しい朝やけの中
どこか彼方に羽ばたいていく
昼には雨が降り出して
どんより雲が流れていく
冷えきった身体に降り注ぎ
僕の頬も濡らした
夕暮れ時にようやく
薄明光線が差し込んで
通りの木々がきらきらと
煌めいて揺れている
星々の溢れる夜空
僕もいつかまた星屑に帰る
喜びも
怒りも
たのしいことも
かなしいことも
この世にうまれて
見て
聞いて
感じて
それがどんなにつらいことでも
僕にはそれがすべてだ
『生きる意味』
SNSで誰かを批判する声を目にする度に、わたし自身の声が聞こえてくる。
「あんなことするなんて、有り得ない。思いやりないし、非常識だよね」
それは昔の自分の声だ。
他人が怖くて、批判されたくなくて、自分は正しいと主張する。
その声はブーメランとなって返ってくる。わたしは時に、思いやりがなく、非常識なことをすることもある人間なのだ。当時批判の言葉を向けた人たちと同じで。
ブーメランが自分の喉を突き刺した時、思うのだ。わたしは悪かもしれないが、そこに至った経緯がある。そしてそれは多くの人には理解されず、ただ悪として排除されるのだ。自分がしてきたことと同じように。
『善悪』